「誰がパロミノ・モレーロを殺したか」(マリオ・バルガス=リョサ著,鼓直訳;現代企画室 1992)を読み返してみた。ナサニエル・ホーソーンの「人面の大岩」に収められた「ヒギンボタム氏の災難」を読んだときに,あれ,よく似た話を読んだことがある気がする,と感じたのがきっかけだ。
ホーソーンが「ヒギンボタム氏」を書いたのは1834年ということで,リョサより150年以上も前になる。よく似ている,と感じたのは,木に吊るされた惨殺死体,白人/非白人の二項対立という大きな設定が共通していたからかもしれない。
「誰がパロミノ・モレーロを殺したか」はリョサが描くあらゆる小説スタイルの中では,「推理小説」に位置づけられるものだが,シルバ警部補と警官リトゥーマの絶妙のコンビの活躍がユーモラスに綴られている。陰鬱に沈まずに軽妙に語られる,不可侵の境界を超えようとして引き起こされた無残な死。
いみじくも,ホーソーン「人面の大岩」の序文でホルヘ・ルイス・ボルヘスは「ヒギンボタム氏の災難」について,「ホーソーンは喜劇性を強調しているが,もしこの作品がいま書かれたとしたら,その結末は悲劇的なものとなるだろうし,出発点となっていたかもしれない」と語っている。
ところで,リョサの著書を読み返していた最中,G.ガルシア=マルケスの訃報を新聞で知った。リョサとマルケスの関係についてきちんと読んでみたいと思っていたところだったので,そのタイミングに少なからずショックを受けている。 あわてて,というわけでもないけれど,出版されたばかりの「疎外と叛逆:ガルシア・マルケスとバルガス・ジョサの対話 」(水声社 2014)を注文してみた。