2026-07-19

2026年6月・7月,神奈川川崎ほか,映画・舞台の記録

 パフォーミング・アートの忘備録として。川崎市アートセンター映像館で映画「ボタニスト 植物を愛する少年」を見る。予告編を見たときは,朝ドラの「らんまん」みたいな話かと思いきや,現実と幻想が溶け合う不思議な世界を生きる植物を愛する少年の日々が描かれた素敵な映画。カザフ族の少年アルシンと,漢族の少女メイユーとの淡い感情の交感の描写が美しい。言葉を話す馬。失踪した叔父。その叔父の帰りを待つ妻。そして強い印象を残すのが冒頭と最後に画面にクローズアップされる老人。彼は誰なのだろう。もしや彼は,と想像を巡らす時間も楽しい。

 静岡に遠征して森山未來のダンスを見る。会場のグランシップは軽やかだけど威厳もあって,感動的に美しい建物。外観の写真を撮り忘れた,というか,あまりの悪天候に駅から駆け込んだので。。というのもW台風が接近中なのに新幹線で東へ向かうという無茶をしてまで見たかった「STILL LIFE」。気付いたときは横浜公演は完売だった。

 作品の主題は「人間と自然との断絶」。新聞に掲載された森山未來のインタビュー記事で彼は「この作品は『我々はこの世界でどうさまよっていて,どう立てばいいのか』を問うているんじゃないかな」と語っている。なるほど,という感じだけど,実際に舞台上の生身の姿を観客席から見ていると,ダンサーと観客の間で「人間と人間が身体を通して分かり合える」(「バレエ入門」(三浦雅士著 p.35))ことを実感する。「想い」が伝わってくるのだ,その身体から。
 1年ぶりの金沢では石川県立能楽堂の観能の夕べにでかける。番組は狂言「咲嘩」と能「枕慈童」。ここ能舞台でも観客はシテの童子の身体を通して,彼岸と此岸を行き来する体験をする。金沢で見る加賀宝生の演能は,いつ見ても感動する。「場の力」もあるのだろうな。 

2026-07-15

2026年6月・7月,東京六本木ほか,展覧会の記録

 時間が経ってしまったけれども,展覧会の記録を忘備録として(会期終了しているものもあります)。六本木の泉屋博古館東京で「ライトアップ 木島櫻谷 Ⅲ」展を見る。時代に応じて色彩の発色の仕方や絵具の質や扱い方の変化を探るという明確なテーマの展覧会なので,見ているこちらも,盛り上がった胡粉やさわやかな緑青の発色などに自然と反応してくる。同時開催の「文化財よ,永遠に 2026」では文化財修復の気の遠くなるような技術に感動。


 泉屋博古館から少し歩いて大倉集古館では「中国 宋・元・明時代の漆器 和の漆器や香道具とともに」を見る。宋代の犀皮香合や長箱など,大好きなので嬉しい。クリクリの屈輪文も楽しいのだけれど,出品リストには屈輪文の記載がなく,文様の名称は省略するのかなと思うも「花文」とか「吉祥文」とかは記されてる。ちょっと不思議。中国漆器は大倉集古館と東博の所蔵品3点のほかはすべて個人蔵なので個々の名称は所蔵者の意向なんだろうか? 大倉集古館所蔵の螺鈿の長箱(元)は写真撮影可だった。息を呑む美しさ。1階では日本の漆器と香道具の展示。香木「蘭奢待」は箱や極書の立派なことに驚く。そりゃそうか,と一人納得。 

 東大駒場キャンパスの駒場博物館では「展覧会カタログの愉しみ」展を見る。資料室の開室20周年特別展とのこと。学術的な興味を深めるためには今橋映子教授の同タイトルの著書や発表された論考などを読みなさい,ということなのだろうと思う。展示されているのは蔵書2万冊のうちの1100冊で,選書やセットリストはオーソドックスな感じ。もともと興味を持って展覧会に出かけて,深く知りたいと思ったときは図録を購入しているので(私の書棚の2割くらいは展覧会図録だし),展覧会としてワクワクしたか,というと微妙な感じ。
 
 その足で駒場コミュニケーションプラザの音楽実習室で「東京大学教養学部選抜学生コンサート」という室内楽のコンサートを聴く。二物を与えられた若者たちの爽やかな佇まい。那須春樹氏の武満徹「雨の樹素描Ⅱ」。

 駒場に来たら日本民藝館へも足を延ばす。こちらは創設90周年記念展「柳宗悦と日本民藝館」展。開館時の常設展の再現が興味深く,楽しく拝見。旧柳邸の西館は開館日が限られているので,初めて訪問できた。素敵である。こんなおうちに住みたいなあ,としみじみ思う。
 最後にあと一つ,上野の森美術館で「大ゴッホ展」を見る。「夜のカフェ」が目玉で,平日昼間というのに大混雑。「夜のカフェ」は撮影可だったけれど,記念撮影とかしてる人もたくさんいて,ちょっと萎える。こういう花の絵は撮影可でも人気がない。 

2026-07-08

読んだ本,「地衣類,ミニマルな抵抗」(ヴァンサン・ゾンカ)


 「地衣類,ミニマルな抵抗」(ヴァンサン・ゾンカ著 宮林寛訳 みすず書房,2023)読了。不思議な書物だ。どんな風に不思議なのか,植物分類学の博士である大村嘉人氏のまえがきから引用させてもらうと,「本書は,地衣類を通じて,時や空間を超えて異なる世界あるいは文化を繋げようとしている。扉の先には,地衣類が紡ぎだす様々な世界が広がっている,さあ,異国への旅が始まる」という一文に凝縮されているようだ。

 異なる世界あるいは文化を繋げるという意味で,古今東西の文学作品からの引用が多い。第一部第二部でそもそも地衣類とは,という視点からその文化的表象を紡ぎ,様々な国の現代詩人と美術家の仕事を紹介する第三部がめっぽう面白い。そして,第四部では科学的な地衣類像から現代社会における「協働」や「共生」の概念へと展開される。

 地衣類・文芸(特に詩)・美術に興味があってこの本を手に取った私のような読者は,第四部はそこまでとはちょっと異質な内容に感じられてしまうが,この「共生」の概念こそ,この分厚い本のメッセージらしい。時間をかけて読み終えて,軽く肩透かしをくらったような,やや徒労感の残る読書体験だった。

 第二部「記載し,命名し,表象する」における日本のワビサビと苔や地衣類をめぐる考察はとても面白く読んだ。「生育が緩慢な地衣類だからこそ,自然の中に流れる時間を告げ,その時間を計る尺度となって,自然の永遠性についても,その不安定さについても,時間の跡として物に残された古色や錆についても,あるがままに伝えることができるのだ。」(p.115)

2026-07-06

2026年7月,風蘭の開花


 風蘭の春及殿が開花しました。2年前に株分けをした子株の方。腰を痛めてからなかなか植物の世話に手が回らない中,かわいい花をつけてくれてとっても嬉しい。

 

2026-06-19

2026年6月,東京東銀座,「六月大歌舞伎 昼の部」

 歌舞伎座で昼の部を観劇。「祇園祭礼信仰記 金閣寺」は時蔵の雪姫。獅童の松永大膳が貫禄たっぷり。華やかな「戻駕色相肩」に続いてはなんと「子連れ狼」! またまた獅童が大奮闘。大音量の主題歌だったり,時代劇そのもののチャンバラだったり,まるでテレビの時代劇を劇場で生放送(?)で見てるみたい。めちゃくちゃ面白かった。次男の夏幹くんが大五郎。「金閣寺」がまさに歌舞伎の定番という演目なので,二度おいしい,という感じの昼の部を堪能。

2026年6月,東京松涛,「中央アジアの手仕事:華麗なる刺繍とジュエリー」・「中央アジアを紡ぐ旋律」コンサート

 松涛美術館では「中央アジアの手仕事:華麗なる刺繍とジュエリー」展を見る。随分と前に「シルクロードの装い」展という展覧会を見たことがあって,書棚の中で手に取りやすい場所に図録を置いてある。図録を見たら2004年の開催(東京都庭園美術館)で,おお,懐かしいという思いと,20年以上も経っているのかという愕然とした思いと。

 展覧会場は,一瞬どこかの学校の団体が来場しているのかと錯覚してしまうほど若い人たちで溢れている。えっ,と思いつつ,人気があるのが嬉しいし,なんとなく誇らしい気持ち?になってくる。そうよね,素敵よね,と話しかけたくなってくる迷惑な年寄りぶりなのである。漫画の「乙姫語り」の影響もあるのかも。


 運よく,関連イベントの「中央アジアを紡ぐ旋律 シルクロードの伝統楽器ドゥタール」コンサートに当選して,地下ホールで1時間近くの演奏を楽しむ。ドゥタールは「二弦」という意味の弦楽器。二胡みたいでもあるしシタールみたいでもある。演奏の駒崎万集さんはウズベキスタンの伝統音楽芸術大学修士課程に在籍中のエネルギッシュでチャーミングな女性。魔法にかかったように時間があっという間に過ぎていく。 

2026年5月・6月,東京上野毛ほか,「館蔵 陶芸展」・「美を味わう 懐石のうつわと茶の湯」

 展覧会の記録がたまってしまって,まずは5月に五島美術館で「館蔵 陶芸展」を見る。毎年,中国陶磁の展覧会が開催される時期に今年は朝鮮・日本の陶芸も併せての展示。ちょうどギャラリートークに参加できた。テーマは中国陶磁に絞ったトークで,学芸員氏の中国陶磁愛の熱量が半端ない。収蔵に至る来歴の話が面白く,楽しい時間を過ごす。でも私の一番は朝鮮白磁だったかな。井戸茶碗も。

 静嘉堂@丸の内では「美を味わう 懐石のうつわと茶の湯」展を見る(6月14日で終了)。器の展覧会が続くな,とそれほど期待せずに出かけたら大興奮の内容。懐石のうつわなので,陶磁器,漆器,ガラス,それに茶杓や盆などの木製品などなどバラエティ豊かな作品が次々と現れて楽しいことこの上ない。

 陶磁器は日本,中国と朝鮮だけでなくベトナムやオランダのものも。日本向けに焼かれた釜山窯は,これまで朝鮮陶磁器を見てきた中でも新鮮な驚き。釜山には是非行ってみたい。陶磁器を見るという目的ができた。

 デルフトの向付や,黎朝期のベトナムの器たちに心奪われる。安南染付の雲龍文字文獣足平鉢は,これも見たことがない形状に目が釘付けになる。いろいろ見てきたつもりだったけど,未知の世界が広がってることがとにかく嬉しい。ベトナムにもまた行きたいなあ。ハノイの骨董街で宝探しができたらどんなに楽しいだろう。