「俺」は妻と幼い息子と一緒にただ家に帰りたいだけなのだ。言葉がまったくわからない異国の都会で夜中に道に迷ってしまったばかりに,恐怖の時間を過ごすことになる。
読み進めるうち,「俺」は「くに」で罪を犯して妻と息子と「島」に不法入国した移民であることがわかる。タイトルの「死んでから」は肉体の死ではなく,社会的な「死」を意味していることがこんな一節から読み取れる。
「俺はここの人間じゃないんだ。俺は存在していない。だが,死人のまま生きるのに慣れることなんでできやしない。」(p.29)
2023年に翻訳された本作は2009年に発表されたという。日本でも移民問題の認知が進んで,この喜劇仕立ての小説が孕む貧困,移民,差別,家父長制などの問題が私たち日本人が身近に感じて読めるようになったということなのだろう。
たしかに,ポリティカルに読んで考えるべき問題が詰め込まれてはいる。しかし,この「物語」が語るのは,「俺」は家に帰れるのかという一点だ。私は最後まで,「俺」は本当に生きているのか,妻と息子と同じ水平に存在しているのか,地下鉄を降りてバス停を探し,最後は飛行機に乗せられて結局行きつく場所は天国かそれとも地獄なのではないかと,ずっとハラハラしながら読み進めた。リカルド・アドルフォの語る「物語」は頗る面白かった。