2017-06-25

読んだ本,「ジャックとその主人」(ミラン・クンデラ)

 遅れてきた忘備録として。「ジャックとその主人」(ミラン・クンデラ著 近藤真理訳,みすず書房 1996)を読了。この本は,昨年の暮れに上田市の古書店NABOで購入した3冊のうちの1冊。たまたまなのだが,他の2冊もみすず書房の本だった。クッツェーとサイードはまだ手をつけていない。
 
 「ジャックとその主人」はディドロの小説「運命論者ジャックとその主人」を自由に変奏した戯曲ということ。しかし,私はディドロを知らない。小説の序文としてクンデラは小説の技法と自作への解題を書いているのだが,この中でディドロとローレンス・スターンの「トリストラム・シャンディ」の違いを明快に説いている。
  
 この序文を読んで,私はある人物を思い出さずにいられなかった。この人は一体,どれほどのスピードで1冊の本を読み,その中身をすべて脳内のメモリーに収めているのか,ただただ驚愕するばかりの人。その人が,今までに読んだ小説で一番面白かったと言っていたのが「トリストラム・シャンディ」だった。そして私は「トリストラム・シャンディ」に挑戦してみたが,何だかよくわからない小説だった。ページが真っ黒だったりするのだ。
 
 その人はクンデラも愛読していて,職場の移動の際,私に何冊かのクンデラを手渡してくれたのだが,クンデラが「トリストラム・シャンディ」を「小説の大きな可能性の一つを実現している」と取り上げていたのを知っていたのだろうか。もちろん,知っていたに違いない。活字になっているどんな小さな情報も彼の脳内には蓄積されているはずだから。
 
 肝心の「ジャックとその主人」よりも,「クンデラを読む」というその至福の読書の体験を,その人に報告して私の知らない世界をまた教示してほしいものだ,という思いの方が強い。読書は思いもかけない感情を日常に呼び覚ます。

2017-06-11

2017年6月,デンドロビウムの開花

5月の記録として。今年はデンドロビウムがたくさん花をつけました。

2017-06-10

2017年5月,埼玉北浦和,「川原慶賀の植物図譜展」・「MOMASコレクション展」

  一月近くもこの場所を放置してしまいました。理由というか言い訳はたくさんあって,でもまあそんなことをここに書いても仕方ないのだし。ともかくも,メンタルな理由はさておいて,PCがある日突然ウンともスンとも言わなくなったのは大ショックでした。
  なんとか必要なデータを救い出して,急ぎの仕事もあって新しい一台を物色したものの,なんだか心浮き立つものがないのです。(PCに浮き立ってどうする。。)長年愛用してるVはもはや選択肢に加えるのも憚られる様子だし,結局,FかNの2択みたいになってしまった。で,ようやく新しいマシンにも慣れてきた今日この頃。

 で,今ごろになってGW以来のあれこれを忘備録として残しておこうという算段です。まずは埼玉県立近代美術館で見てきた「川原慶賀の植物図譜」展。写真のような,という言い方もできるであろう細密描写に,じゃあ写真とは何が違う,と考えてみてもなかなかうまく言葉にできない。しかし,カメラのレンズを通さない自然への眼差しには,どこか人間の思考の歪みみたいなものが明らかに感じられます。「植物画」を見ている私が誘われるのは自然の美ではない,「平行世界の美」なのだ。

 さて,そして1階のMOMAS COLLECTION展で大感激の出来事が!第4章「建畠晢×MOMASコレクション」の文字にむむむっとなる。草間彌生の作品に建畠氏が短い詩を付けたのだという。心音が高まるのを感じながら会場へ。そして,草間氏の「青蛇の目をもつ花瓶」の脇の壁に,建畠氏の言葉が躍る。その詩はこんな一行で始まっていました。

「昔,六波羅蜜寺はトマトだった」

 もう,魂わしづかみです。理屈じゃないんです! そんなわけでこの日は特別な一日となって,しばらく建畠ワールドにどっぷりとつかったのでした。