2025-03-12

読んだ本,「大統領閣下」(アストリアス)

   「大統領閣下」(アストリアス 内田吉彦訳 ラテンアメリカの文学2 集英社1984)。読書中に図書館から数冊の予約本の準備ができたという知らせが入り,何度か中断をはさみながら,随分と時間がかかったけれども読了。アストリアスは文庫本で「グアテマラ伝説集」を読んだことがあるだけで,ほぼ初読の作家である。

 「ラテンアメリカ十大小説」(木村榮一)によると,この「大統領閣下」は独裁者小説の傑作のひとつなのだという。ちなみに他の傑作は「方法再説」(アレホ・カルペンティエル),「族長の秋」(ガブリエル・ガルシア=マルケス),「至高の存在たる余」(アウグスト・ロア・バストス)などのタイトルが挙がっている。なるほど,「独裁者小説」というジャンルはラテンアメリカ文学ならでは。

 アストリアス自身が独裁者エストラーダ・カブレラとその後の軍事独裁制と対立してきたということで,この小説は自身と父親の経験をもとに書き上げられたものだという。主人公のミゲル・カラ・デ・アンヘルは大統領と妻カミーラの板挟みとなって文字通り自己を引き裂かれて破滅に至る。ほとんど表に現れずに君臨する大統領の姿は否応にも強烈な存在感を放つ。

 「十大小説」によると,特異な文体と語り口もこの小説の特徴だという。その詩的・魔術的な独自の文体は原文で読んでこそというが,読みやすい訳文からもその魅力は十分伝わってくる。残酷な場面ではあるが,死刑囚が銃殺されるこんな場面。「…続けざまに銃が火を吹きました。一,ニ,三,四,五,六,七,八,九発。なぜか私は指でかぞえていたのですが,それ以来,自分の指は一本多いのだという奇妙な感じに囚われています。」(p.208)


 

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