2016-12-04

2016年11月,愛知名古屋,アルバレス・ブラボ写真展 メキシコ,静かなる光と時

 気付いたら,カレンダーが残り1枚になっている。。とにかく時間が矢のごとく過ぎ去っていき,私は今立ち止まりたいのだ,と強く念じない限りはその流れに流される日々が続きます。
 
 今年の夏,世田谷美術館で開催されていたメキシコの写真家アルバレス・ブラボの写真展も,会期を逃してしまって残念に思っていたのですが,先日名古屋市美術館での巡回展を訪れることができました。
 
 期待に違わぬ充実した展覧会です。ブラボの名前を始めて聞いたときはあまりピンと来なかったのですが,オクタビオ・パスとの共作など,ラテンアメリカ文学の文脈で俄然,その仕事に興味を抱いた写真家。充実した図録には野谷文昭氏も寄稿していて読み応えがあります。世田谷での講演も聞きたかったなあ,と残念至極。
 
 何しろ1世紀を生きた写真家なので,その仕事を辿ることは1世紀にわたるメキシコの歴史を辿ることにほかなりません。展示室をゆっくり歩きながら,遠い遠いその地の乾いた空気と,そこに生きる人々の不思議な死生観に魂が吸い込まれるような時間を過ごします。
 
 第2部「写真家の眼―1930-40年代」が圧倒的。とりわけ,第1章「見えるもの/見えないもの」と第2章「生と死のあいだ」の写真は,1枚1枚の印象的なタイトルとともに,見る者である私にその意味を強く問いかけてくる。「舞踊家たちの娘」は丸い窓の向こうに何を見ているのか。「パパントラの青年」の視線はどこへ向いているのか。
 
 他にも印象に強く残った写真とそのタイトルをいくつか。「消された扉」Cancelled door,「入口」The threshold,「この世の諸物と巡礼者」Pilgrim in the things of this life。すべてがモノクロームの詩篇。
 
 「メキシコの美の巨星たち」(野谷文昭編,東京堂出版 2011)はメキシコ文化を広く網羅していてとても読みやすい1冊。「フリーダ・カーロ」(上野清士,新泉社 2007)はフリーダと同時代に生きた芸術家たちについて深く知ることができます。

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