2017-01-09

読んだ本,「静かな大地」(池澤夏樹)

 昨秋から抱えるようにして読んできた「静かな大地」(池澤夏樹著,朝日新聞社 2003)をようやく読了。抱えるように,というのは文字通りで,本の厚みも5センチを超えようかという,600頁超の大著だ。
  「明治初年,北海道の静内に入植した和人と,アイヌの人々の努力と敗退。日本の近代が捨てた価値観を複眼でみつめる,構想10年の歴史小説」と帯に書かれている。そうだ,アイヌは決して歴史の勝者ではないのだ。

 昨年一年間,夢中で見ていた大河ドラマも敗者の物語だった。ただ「美しい」などという言葉では括れない,人間の生と死がここにもある。

 ストーリーはそれほど複雑ではなく,淡路島から入植した三郎と志郎の兄弟が,アイヌの少年オシアンクルと親しくなる。そしてやがて三郎はアイヌの力を借りて牧場を経営するようになる。アイヌは狩猟の民だ。馬の扱いに長けている。 しかし,その牧場はアイヌをよく思わない人たちや利権の争いに巻き込まれてやがて悲劇へと向かう。

 兄のあまりに哀しい死に直面した志郎はこう言う。「両の手でしっかりと握った筒先を心臓に向けたのだろう。/そういうことで兄が失敗するはずがない。/(略)/私はみなを連れてくるようニプサタに言い,兄が見えるところに腰を下ろした。そうやって,ずっと死んだ兄を見ていた。/私は心が石になったように,何も感じなかった。」(pp583-584)

  私もまた,深い慟哭へと突き動かされるわけではなかった。それが「敗者の歴史」であることを予め知っていたからだろうか。それとも,北の大地の自然の中に一人置き去りにされたからだろうか。それは不思議なほど,「静かな」読後感に満たされたのだ。

 アイヌの人たちへの関心は,ずっと以前に函館市北方民族資料館を訪れて,深く静かに感動して以来ずっと心の片隅に持ち続けている。今年は機会を見つけて北へ向かうことができれば。

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