島田雅彦の新刊「人類最年長」(文藝春秋)を読了。1861年生まれ,159歳の死なない男の物語である。奇想天外な設定と思いきや,小説は日本現代史といった趣で,歴史を一人称で紡ぐ試みとでも言えばよいのか,極めて真面目な小説だった。
雅彦ファンとしては,もう少し毒があっても面白いのにと思いながらも,最終章の「-あなたのおっぱいを触らせてもらえないだろうか。―はあ?」というやり取りに思わず吹き出す。しかし,これは男の身体に宿った不老不死の精霊を引っ越させるための儀式だった。再び,吹き出す。
「テクノロジーが進化した分,人は劣化したね。昔の人間の方が自分の頭と体をよく使っていた。昔の方がよかったという気はさらさらないよ。人間は元々,原始的にできているんだから,百年二百年じゃ大して変わりゃしない。」(p.265)
この場所をすっかり放置してしまっていた間に,身近な人の死に接していた。あまりに近すぎて,哀しみとか喪失感に暮れるという感覚もなく,次々と襲い来る事務的な手続きに忙殺され,あまりに忙しく,あまりに疲弊した。
その合間に読んだ本として,どういうチョイスなんだ,と自らつっこみたくもなるが,「人は死ぬ」というあまりに当たり前な自然の摂理を,一瞬立ち止まって考える時間を得た。おかげで感傷に流されることなく,日々をやり過ごしている。島田雅彦を読んでてよかった。そして文学を,言葉の力を信じていて本当によかった,とそう思う。
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