2022-09-11

2022年9月,東京六本木,「李禹煥」展

 過日,国立新美術館で開催中の李禹煥展を見てきました。11月までの長い会期ですが,世田谷美術館館長の酒井忠康氏との対談が開催されたのに合わせて出かけた次第。

 横浜美術館での個展(2005年)が今も記憶に鮮やかなせいか,東京で初の個展と言われてもぴんとこなかったのですが,過去の立体作品のタイトルの多くが「関係項」と改題されるなど,歩みを止めない作家の凄みみたいなものが伝わってきて新鮮な感動でした。

 前半が立体,後半が絵画という厳然とした会場構成もとてもよかった。中庭の「関係項ーアーチ」を見て会場に戻った時,軽い眩暈を感じました。まさに三次元と二次元の関係項を体感した気分。 
 酒井館長との対談はとても面白かったのですが,司会の逢坂氏の進行が今一つで,時間ばかり気にして折角のお二人の対談が盛り上がったところでぷつっと終わってしまった感じ。それでも印象に残る深い言葉をたくさん聞くことができました。

 その中の一つだけ,何も描かれていないキャンパスを3枚並べた「物と言葉」(1969)について,「何も描いていないということが大事なのであって,表現とは『きれいな何かを作る』ではなく『何が起こるかわからない』行為をいう」(大意です,間違ってたらお恥ずかしい限り)。

 私の書棚にあって大切にしている李氏の著作は「時の震え」(小沢書店)と「立ちどまって」(書肆山田)。「立ちどまって」はとてもとても大切な詩集の1冊。「傘」という詩を引用します。「雨の日に/傘を差して歩く人は/みな孤独だ//それは雨に/濡らしたくない小さな空間を/持ち運ぶからだ//自分もその空間に入って/雨のなかを/ここそこ向こうへと場所を移す//人が/透明なガラスケースのように/自分を閉じて歩きたがるのは//傘の下で/冷たい孤独の/雨に濡れたいからだ」(pp/180-181)

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