2023-03-14

2023年3月,東京六本木,木米展

 サントリー美術館で開催中の「没後190年 木米」展を見てきました。「江戸の陶工にして画家・文人」という紹介されていますが,私には金沢九谷の祖というイメージ。第一章のやきものの展示には金沢春日山窯の紹介や金襴手の茶碗などもあって,そうそう,これぞ木米,と思わず独り言ちてしまったのでした。
 で,これで終わりではせっかく出かけた甲斐がないというもの。個性あふれた煎茶道具や古陶磁の翻刻,そして絵画もとても魅力的。遺言として,陶土に亡骸を入れて窯で焼き山中に埋めてほしいと言ったと伝わるそう。文人の粋なのだろうか,それとも芸術に魅入られた人の狂気なのだろうかとしばし足が動かなくなりました。

 ちょうど読み返していた辻邦生「橄欖の小枝」に木米論「孤高の行方」が所収されていて,こんな一節が心に残ります。「木米の製陶はひたすらこの美の実現に集中している。それは俗とか雅とかの考えも入る余地がない。木米が『陶説』を読んで陶の全体を摑んだとき,この全体が木米自身の存在理由となったのだ-そうした激しい直覚が木米の魂を貫いたのだ。だからこそ,この美を実現することは,生の変転を超えた,ある安心立命に達することになるのだった。」なお,同稿によれば,木米は死後火葬に付され,盛大な葬儀が行われたのだそう。
 ところで,九谷の「木米柄」というとこんな赤絵の唐子の柄がポピュラー。なぜか若い頃からこの柄に惹かれて,茶碗などいくつか持っています。普段は使っていなかったのですが展覧会を見て思わずお茶を淹れて一服。

2023-03-05

読んだ本,「ボタニスト」(マルク・ジャンソン著 シャルロット・フォーヴ編),鳥海書房で買った植物画

  タイプショップgプレス社からヴィンケルハーケン叢書1として出版されている「ボタニスト パリの標本館を築いた植物学者たち」(マルク・ジャンソン著 シャルロット・フォーヴ編 佐々木ゆか訳 中原毅志監訳)を読了。出版社も叢書の名前もまったく未知なのだが,手に取ったのはこれはもう「ジャケ買い」としか言いようがない。

 ボタニストたちの想像を絶する人生やその仕事を楽しく読み進めたが,それよりも(?)この本を出版した人たちが気になって,タイプショップgプレス社のHPを見てみる。なるほど,グラフィックデザイナー、タイポグラファーの小泉均氏が代表の会社だそう。

 横組みも洒落ているし,コンパクトなソフトカバーの造本も手になじむ。何よりカバーのシダ類の標本の写真と地色のレイアウトが素敵。ジャケ買い,大成功の1冊! もちろん中身も楽しい。こんな一節が心に残る。

 「わたしたちは彼らよりうまくやれるだろうか? わたしはそうは思わない。それに,今日,誰が野生のケシのために命をかけるだろう? もはや花を求めてアビシニアやネパールで命を落とす者はいない。当時派遣された者たちの多くにとって,生物の目録は神を追求することでもあった。大半が科学者というよりは聖職者であった事情を考えれば,地上に生きとし生けるものの目録は創造主の無限性における全能を証明するものであったのである。」(p.221)

 すっかり影響されて,神保町の鳥海書房に植物画ハンティング(!)に出かけた。Curtis Botanical Magazineのカゴを1枚ずつめくって,1812年のこの1枚をハンティング。エリジウムの1種のようだ。アクリルのフレームに入れてシンプルに飾ろう。