帯状疱疹という病気に罹り,精神的にきつい日々を過ごした。痛みが辛いのは病気だから仕方がない。しかし,疲れやストレスがこの病気の原因なのだというそのことが重荷となってしまう。確かに疲れてますよ,では何に?生活の糧のための仕事はもちろんストレスですよ,でもそれがなければ生きていけないのですよ?
とまあ,こういう交戦的な(?)精神状態がしばらく続いたが,痛みが少し和らいできてだんだん落ち着いてきたところ。なかなか本を手に取る気もしなかったのが,活字に飢えた少女のごとく,寝る時間も惜しんで「地球にちりばめられて」(多和田葉子 講談社)を読了。ただただ面白かった。留学中に母国である島国(「日本」という単語は一度も出てこない)が消滅してしまった主人公Hirukoが同じ母語を話す人間を探す旅に出る話。国が消滅すればパスポートもなく,国境を越えることもできない。しかし,言語は消えず,人と人はつながることが出来るのだ。
一章ずつ語り手が変わる構成で,登場人物のほぼ全員が一人称で語るので,読者もまた彼らと一対一でつながることが出来る。唯一,Hirukoと行動をともにするクヌートの母親は語り手にはならない。小説のラスト,あまりに雑な(?)扱いに泣き笑い。ユーモラスというよりは「滑稽な」という形容詞がぴったりのこの母親ともつながってみたかったなあと思いつつ,本を置く。
「『おまえは遭難した船みたいなものだ。大洋の真ん中で方角を失って,必死で波や風と戦っている。村に残った方が楽だったには違いないさ。でも船に乗ったことは後悔していないだろう。』/くさいセリフならいくらでもストックがある。無臭のセリフなんて面白くもない。みんなで泣ける物語だ。いっしょに泣ける人たちはまわりにいない。廃墟に一人取り残されたわたしが,物語の断片をかろうじて声にして,Susanooがその声に耳を傾けている。最後に生き残った二人。」(p.270より)
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