2019-10-27

2019年10月,東京立川,民画体験と地球堂書店

 初めての立川。大きな駅には何でもそろい,便利な街の顔にびっくり。

 駅ビルのお洒落な店は通りこして,古書店めぐりのブログで以前から気になっていた「地球堂書店」に行ってみました。なるほど,ここだけ時が止まったようです。店構えも品揃えも1980年代から変化がないんじゃないか,なんて書いてありましたが,そんなことはなかったです! 2013年刊の「本読む幸せ」(福原義春 求龍堂)を購入しました。

 本はきちんとパラフィンがかけられているし,道路側の陳列台や棚が段ボールで覆われているのは排気ガスや日差しを避けるためみたい。店主の古本への愛情がなんとはなく伝わってきて気持ちいい。それなりに(?)楽しめました。
 
 今,三国志を読みながら,並行して次々に読んでいて,「本読む幸せ」はしばらく積読になりそう。パラフィン紙を透かして見えるのは,あれ,寺田真由美の写真?ミニチュアを撮影した室内写真が魅力的な人だな,と思っていたけど最近は名前を聞かないような。福原義春が注目していたのか,とちょっと新鮮な驚き。読書の楽しみが増えました。
  ところで立川に出かけたのには理由があって,某カルチャーセンターの主宰する民画の一日体験を受講したのでした。韓国民画を自分で描いて楽しむ,という発想がなかったので,楽しかった!お手本の菊の花をカーボンで写してコースター大に仕上げるというお手軽コース,のはずが! 仕事が雑(泣)な割には時間がかかって,途中で時間切れに。家に帰って仕上げました。恥ずかしいけどアップしちゃおう。素朴でよい感じになったと思うのですが。。


2019-10-22

読んだ本,「円生と志ん生」(井上ひさし)

 大河ドラマ「いだてん」は視聴率が悲惨なことになっているらしいのだけれど,私にはとにかく面白い。ドラマのストーリー展開はともかくとして,前回の志ん生が満州に慰問に行った話にはやられた。森山未來が扮する志ん生が満州居残りの日本人客相手に「富久」を演じるシーンには号泣。七之助が演じた円生も,歌舞伎の舞台とはまったく違う魅力にノックアウトである。
  で,この志ん生と円生が満州で過ごした2年間を描いた舞台があると知って,井上ひさしの原作(脚本)(集英社 2005)を読んでみた。45分のドラマではわかりにくかった史実なども理解できたし,そしてこの戯曲の力があってこそのいだてんなのかと思うくらい,志ん生と円生の過ごした濃密な時間の流れに圧倒される。

 みすぼらしい風体の志ん生たちを,カトリック修道院の修道女たちがキリストの再来と信じるシーンのおかしみ。「オルテンシア:「イエズスはいわれた。『あなたたち人間にはいつも苦難がある』」/院長:(うなづいて)ですから,生きているものはいつも涙を流しています。それで,この世のことを「涙の谷」というのですよ。/松尾(円生):苦しみや悲しみは放っておいても生まれてくる?/院長:(うなづいて)だから,生きると,つらいは,同じ意味なのです。/松尾:その鉄則には笑いが入っていない?/院長:もともとこの世には備わっていないのですよ。/松尾;ところが,それをこしらえている者がいるんですよ。/院長:…はい?/松尾:この世にないならつくりましょう,あたしたちが人間だぞという証しにね。その仕事をしているのが,じつは,あたしたちはなし家なんです。/孝蔵(志ん生):いよォ,勉強したんだな。」(p.171より) 

2019-10-06

2019年10月,東京上野,伊庭靖子展・風景の科学展

  会期終了が近づいている(10月9日まで)伊庭靖子展を見に上野にでかけました。クッションや寝具を「写真のように」描く写実画の人,という知識しかなかったのですが,過去から現在へと並ぶ作品群は,「もの」から「空気」へと向かう作家の思考の過程そのもの。
 アクリルボックスにモチーフを入れて描く作品は,ボックスに映り込んだ周囲の景色も描かれています。もはや,「モチーフ」は作品の素材であって「目的」ではないということかと。そこに描かれているのは「空気」なんだな。
 
 ところで,本人のインタビュー記事によれば、実物ではなく写真を見て絵を描くのだそう。「反射光で撮られる写真では抜け落ちるものがありますが,残されて,良いと感じた物だけを絵の中で引き上げていくと,描きたい世界が表現できます」(東京都美術館ニュースno.460「展覧会の舞台裏」より)
 
  「写真のような」写実画を描く意味が今までよくわからなくて,興味を持たずにきたけれど,なるほどそういう光とものの捉え方があるのか,と新鮮な驚きでした。展覧会の最後は版画や映像もあり,伊庭靖子という同時代の作家の仕事がこれからも楽しみです。 
 上野では国立科学博物館で「風景の科学展」も。「芸術と科学の融合」というサブタイトルに興味シンシン。写真・上田義彦+企画・佐藤卓+主催・国立科学博物館というこの展覧会は,「芸術家の目が切り取った風景に,自然科学の研究者は何を見るのだろうか」がテーマです。
 
 佐藤卓氏の序文によれば「写真という芸術を入口に,科学の世界に誘う展示を,さてあなたはどう見るだろうか」とあります。研究者の解説は風景と,風景の背後にある時間の流れを扱っていて,どれも興味深いものです。
 
 ただ,こういう趣旨の展覧会に上田義彦氏の写真はぴったり過ぎて,写真そのものの魅力はちょっとマイナスの引力に引かれていたような。ちょうど今,エプソンのギャラリーで上田氏の個展が開催中なので,それも見に行こうと思っているところ。