大河ドラマ「いだてん」は視聴率が悲惨なことになっているらしいのだけれど,私にはとにかく面白い。ドラマのストーリー展開はともかくとして,前回の志ん生が満州に慰問に行った話にはやられた。森山未來が扮する志ん生が満州居残りの日本人客相手に「富久」を演じるシーンには号泣。七之助が演じた円生も,歌舞伎の舞台とはまったく違う魅力にノックアウトである。
で,この志ん生と円生が満州で過ごした2年間を描いた舞台があると知って,井上ひさしの原作(脚本)(集英社 2005)を読んでみた。45分のドラマではわかりにくかった史実なども理解できたし,そしてこの戯曲の力があってこそのいだてんなのかと思うくらい,志ん生と円生の過ごした濃密な時間の流れに圧倒される。
みすぼらしい風体の志ん生たちを,カトリック修道院の修道女たちがキリストの再来と信じるシーンのおかしみ。「オルテンシア:「イエズスはいわれた。『あなたたち人間にはいつも苦難がある』」/院長:(うなづいて)ですから,生きているものはいつも涙を流しています。それで,この世のことを「涙の谷」というのですよ。/松尾(円生):苦しみや悲しみは放っておいても生まれてくる?/院長:(うなづいて)だから,生きると,つらいは,同じ意味なのです。/松尾:その鉄則には笑いが入っていない?/院長:もともとこの世には備わっていないのですよ。/松尾;ところが,それをこしらえている者がいるんですよ。/院長:…はい?/松尾:この世にないならつくりましょう,あたしたちが人間だぞという証しにね。その仕事をしているのが,じつは,あたしたちはなし家なんです。/孝蔵(志ん生):いよォ,勉強したんだな。」(p.171より)
0 件のコメント:
コメントを投稿