会期終了が近づいている(10月9日まで)伊庭靖子展を見に上野にでかけました。クッションや寝具を「写真のように」描く写実画の人,という知識しかなかったのですが,過去から現在へと並ぶ作品群は,「もの」から「空気」へと向かう作家の思考の過程そのもの。
アクリルボックスにモチーフを入れて描く作品は,ボックスに映り込んだ周囲の景色も描かれています。もはや,「モチーフ」は作品の素材であって「目的」ではないということかと。そこに描かれているのは「空気」なんだな。
ところで,本人のインタビュー記事によれば、実物ではなく写真を見て絵を描くのだそう。「反射光で撮られる写真では抜け落ちるものがありますが,残されて,良いと感じた物だけを絵の中で引き上げていくと,描きたい世界が表現できます」(東京都美術館ニュースno.460「展覧会の舞台裏」より)
「写真のような」写実画を描く意味が今までよくわからなくて,興味を持たずにきたけれど,なるほどそういう光とものの捉え方があるのか,と新鮮な驚きでした。展覧会の最後は版画や映像もあり,伊庭靖子という同時代の作家の仕事がこれからも楽しみです。
上野では国立科学博物館で「風景の科学展」も。「芸術と科学の融合」というサブタイトルに興味シンシン。写真・上田義彦+企画・佐藤卓+主催・国立科学博物館というこの展覧会は,「芸術家の目が切り取った風景に,自然科学の研究者は何を見るのだろうか」がテーマです。
佐藤卓氏の序文によれば「写真という芸術を入口に,科学の世界に誘う展示を,さてあなたはどう見るだろうか」とあります。研究者の解説は風景と,風景の背後にある時間の流れを扱っていて,どれも興味深いものです。
ただ,こういう趣旨の展覧会に上田義彦氏の写真はぴったり過ぎて,写真そのものの魅力はちょっとマイナスの引力に引かれていたような。ちょうど今,エプソンのギャラリーで上田氏の個展が開催中なので,それも見に行こうと思っているところ。
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