「ニジンスキー 踊る神と呼ばれた男」(鈴木晶,みすず書房 2023)読了。バレエ・リュスの「牧神の午後」のプログラムのイメージが好きすぎて,そこからニジンスキーに入っていったというと彼のファンには怒られそうだ。
兵庫県立芸術文化センターの「薄井憲二バレエコレクション」のプログラム現物資料をいつか見に行きたいとずっと思っていたところ,今年1月には京都で「踊るバレエ・リュス」というイベントが,そして兵庫県立芸術文化センターでは3月10日までこのイベントの特別展である「レオン・バクストの衣裳」展が開催されていた。体調が悪くて,神戸も京都も行くことが叶わず,あまりに残念で痛恨の極み。
そこでこのずっしりと読み応えのあるニジンスキーの伝記にじっくり取り組んでみたという次第。ダンサーであり振付家であるその生涯がとにかく詳細に描かれる。とりわけ南米公演に向かう途中の突然の結婚によってディアギレフからバレエ・リュスを解雇されるくだりや,一時的に復帰してもやがて狂気に陥り,ロンドンで死に至るまでの緊張感など,濃密な映像作品を見るように読み進め,読了後はしばし呆然。
特に第5章の「振付家ニジンスキー」を興味深く読んだ。「牧神の午後」の振付に影響を与えたであろうルーブルの古代ギリシャの壺や,彼自身が記録した「舞踊譜」の図譜としての美しさなど,豊富な図版によりイマジネーションが刺激される。
ディアギレフとの関係や,レズビアン的嗜好をもつ妻との関係など複雑な性向についても詳しいが,冷静で淡々とした筆致で語られていて信頼して読むことができた。なお,ディアギレフを中心とした共同体については海野弘の著作も併せて読んでみた。初めての知見が多くてこちらも読後は呆然。
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