ホセ・ドノソは長編「夜のみだらな鳥」で格闘(?)して以来,手に取るのを躊躇してしまいそうになるのだが,2023年に短編集が出ていたのを知って,短編ならばと読んでみた。実に面白く,満腹の読後感。水声社のフィクションのエル・ドラードシリーズの1冊で,訳は寺尾隆吉による。
14の短編から構成されている。全短編ということは,これで全部なのだろうか(当たり前),どれも魅力的だが,標題作の「閉ざされた扉」,「散歩」,「サンテリセス」,そして最も短い「《中国(チナ)》」が心に残る。「夜のみだらな鳥」と同様に,狂気と妄想の渦巻く世界がコンパクトに眼前に現れるので,読みながら「行って帰ってくる」感覚とでも言えばよいのか,これぞ読書の醍醐味といった時間を堪能した。
「散歩」は,書き手の叔母であるマティルデがある日みすぼらしい白い雌犬と「視線がぶつかった」ときから始まる。マティルデと白い犬は散歩に行く。何処へ? 私は彼らの後をそっとついていく。彼らは気付いていないはずだ。ずんずんと進む。彼らは気付いているのかもしれない,と思い始める。私は帰りたくなる。頁を繰る手が震える。
「死は恐ろしいものではなく,整然として濁りのない最終段階なのだ。もちろん地獄は存在するが,私たちとは無縁で,この町の他の住人たち,損傷を引き起こして訴訟とともに我が家の富を増やしてくれる名もない船乗りたちを罰するために存在するだけなのだ。」(「散歩」pp.206-207)
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