ずっと書棚に眠っていた「雪」(オルハン・パムク著 和久井路子訳 藤原書店 2006)。いつか読もうと思っていた1冊だが,この冬,手に取ったことはよかったのかどうか。数年に1回という降雪に見舞われたり,北陸の豪雪のニュース映像に胸を痛めたりという日々,ページをめくりながら,カルスに降り積もる雪の景色が眼前に浮かんで辛い思いもしばしばだった。
しかし,降りしきる雪の中の静かなロマンスや,何一つ解決していかないトルコとトルコ人の問題などを,主人公の42歳の詩人Kaに感情移入して読み進めていくことは,読書の醍醐味であることに他ならない。オルハン・パムクの物語世界を堪能した。
レビューなどでは翻訳を酷評する声も多いようだが,格調高く,そしておそらくは原文のトルコ語の独特なリズムや文体を日本語へ鮮やかに転換しているのだろうと思わせる和久井路子氏の訳は,私には心地よいものだった。
「この世で自分は何をしているのだろうかと考えた,Kaは。雪は遠くからいかにも惨めに見えた。自分の人生もいかに惨めなことか。人は生きて,疲れ果てて,やがて何ものこらない。自分がなくなってしまったかのように感じる一方,存在していると考えた。彼は自分を愛していた。彼の人生が歩んできた道は愛と悲しみがついてきた。」(p.118より)
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