小野正嗣の「水死人の帰還」(文藝春秋 2015)を読了。タイトルから,ガルシア=マルケスの「この世で一番美しい水死者」に通じるものがあるのかと期待して読み始めたのだが,異質な世界だった。
九州の田舎の漁村である「浦」が舞台となり,そこに住む伽とオジイとオバアが描かれる。閉鎖的な浦の風景の中に沈む,オジイとオバアのつながりは,一見美しいのかと思いきや,そんな読者の浅はかな読みを嘲笑うかのように陰惨でグロテスクだ。
読み進めるうちに,オジイとオバアの生死さえ曖昧なものになっていき,「水死人」とは誰(何)なのか,「帰還」とはどこからどこへなのか,何を象徴しているのか,象徴しようとなどしていないのか,混乱するばかり。
ようやく読み終えて,翻訳の仕事とはまったく異質なその小説世界に呆然となる。しかし,私はまたこの作家を読むだろうな,という不可思議な確信めいたものを,他者のまなざしのように冷ややかに見つめている自分がいる。
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