次々と語られるエピソードは脱線を繰り返すかと思うと突然沈黙がやってくる。語っているのは自分なのか他者なのか,そもそも何か大切なことを隠しているかのような語りは,死の間際に現れた「老いた若者」に届いているのだろうか。
小野正嗣による解説を読んで,ようやくすとんと理解できた気がしている。この神父の沈黙が「政治的で歴史的な」ものであるということが。そして「老いた若者」とは一体何者だったのかが。
物語の冒頭の一節。「…わたしの名が汚されようとしている。人は責任を取らなければならない。それはわたしが一生言い続けてきたことだ。人は自らの行動に責任を取るべき道徳上の義務がある。自らの言葉についても,沈黙についてさえも。そう,沈黙についてさえも。なぜなら,沈黙も天に届いて神に聞こえ,それを神だけが理解し,裁くからだ」(pp.7-8)
0 件のコメント:
コメントを投稿