2022-04-30

読んだ本,「チリ夜想曲」(ロベルト・ボラーニョ)

  白水社のボラーニョ・コレクション「チリ夜想曲」(野谷文昭訳 2017)を読了。全編改行なしでひとりの男が過去を回想する。男はカトリックの神父だ。146頁の中篇だが,読み通せるだろうかと不安を覚えながら頁を開いた。そして一気に読み終えてこの不思議な読書体験を言葉にするのは難しい。

 次々と語られるエピソードは脱線を繰り返すかと思うと突然沈黙がやってくる。語っているのは自分なのか他者なのか,そもそも何か大切なことを隠しているかのような語りは,死の間際に現れた「老いた若者」に届いているのだろうか。

 小野正嗣による解説を読んで,ようやくすとんと理解できた気がしている。この神父の沈黙が「政治的で歴史的な」ものであるということが。そして「老いた若者」とは一体何者だったのかが。

 物語の冒頭の一節。「…わたしの名が汚されようとしている。人は責任を取らなければならない。それはわたしが一生言い続けてきたことだ。人は自らの行動に責任を取るべき道徳上の義務がある。自らの言葉についても,沈黙についてさえも。そう,沈黙についてさえも。なぜなら,沈黙も天に届いて神に聞こえ,それを神だけが理解し,裁くからだ」(pp.7-8)

 

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