2023-01-09

読んだ本,「太陽諸島」(多和田葉子)

 多和田葉子の「太陽諸島」(講談社 2022)を読了。「地球にちりばめられて」「星に仄めかされて」に続く三部作の完結編。消えてしまった故郷の島国を探して旅に出たHirukoと仲間たち,と簡単には言い尽くせない不思議な物語。今作は全編が船旅で,まるで彼らと共に遥か遠いバルト海を旅していたようだ。読み終えた今,船から降りたのにまだ身体も脳も波に揺れているような感覚が続いている。

 6人の構成はまさに世界の多様性という言葉を具現化したかのようでもあり,1人の人間の内面のようでもあり,最後にHirukoが仲間たちに宣言する言葉に彼らの生きる/生きていく世界が集約されているよう。

 物語の本質から少し離れたところで気になった文章のいくつかを。まだ見ぬ土地へ旅立つときにきっと思い出すだろう。カリーニングラードでヴィリニュスを見学できなかったクヌートの言葉。「(略)なんだか僕の人生の内容がいつのまにか観光だけになってしまったよ。大きな課題を与えられなかった人間は観光客になるしかない。」( p.194)

  Susanooが船客の70代の夫婦を甲板で見かけたときの独白。「二人は木箱の中の高級ワインのように,「老後」という箱に無理なく収まっていた。彼らにとって人生はきっと,子供時代,恋愛時代,子育て時代,老後ときちんと分割されているのだろう。オレの人生にはそういう仕切りがない。」(p.260)

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