2023-06-24

読んだ本,「時々,慈父になる。」(島田雅彦)

 島田雅彦の最新刊「時々,慈父になる。」(集英社 2023)を読了。作家デビュー40周年なのだそうだ。デビュー当時はそれほど熱心な読者ではなかったけれど,デビュー作以来ずっと読み続けているわけで,読者歴も40周年と思うと何やら感慨深い。

 で,これは帯によると「毀誉褒貶を顧みない作風で絶望の時代を駆け抜けた作家による,自伝的父子小説」ということ。そう言われると,バブルの崩壊,湾岸戦争,震災,コロナ禍…と次々に世界の絶望を思いついてため息が出てくる。

 しかし,そういう時代を一人の作家の作品を追いかけて生きてきたんだ,と思うと心強い。一時期はファンの集まりみたいのにも顔を出したりしたけれど,当時の読者たちもみんな年を取ったのだろうな,と思ってしまう。

 今作は「君が異端だった頃」で免疫(?)が出来ていたせいか,作家の私生活に衝撃を受けることもほとんどなく,寧ろ過去の作品が懐かしくなって「自由死刑」などを読み返してしまった。息子のミロク君も立派になったんだ。「詩のボクシング」の時に奥様と一緒に最前列に座っていた美形の少年を思い出す。

 「心折れる日常から逃避できるドアを持つのは精神衛生上不可欠だが,小説は別の時空への「どこでもドア」になる。「もし,私が小説を書いていなかったら」という仮定法はあまり考えたくない。どうせ答えは「入院している」とか,「刑務所にいる」とか,「アルコール依存症になっている」とか,「墓の下にいる」のいずれかになる。/肉体をよその土地に運ぶトリップと,意識だけ別の時空に飛ばすスリップの二本立てを重ねて来られたのは小説家の役得だった。…」(p.182)

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