短い北陸への旅。どうしても行きたかったのが富山県魚津市の魚津埋没林博物館。かれこれ20年以上前に一度訪れたことがあってとても印象的だったのですが,ただ1つ,展示パネルをよく見ていなかったことが大きな心残りだったのです。
というのは,訪問後に「風鳥」(清水邦夫 文藝春秋1993)所収の「魚津埋没林」を読んだのがきっかけ。面白い博物館に行ってきたよと友人に話したところ,ああ,清水邦夫の小説のあそこね,と言われて大急ぎで読んだのですが,その小説(物語は寂しい)のラストに展示水槽の横のパネルの文言が出てくるのです。
それは「ファーブル植物記」からの引用文。「植物の根と茎の反対の性向」についての記述からの抜粋と前置きしてパネル1枚分の文章が引かれています。その一部。「植物は性格が正反対の二つの部分に分かれる。光を求めてやまない茎と,闇がほしい根とである。(略)根のほうは暗闇でしか生きない。どうしても地中の闇が必要だ。(略)とにかく第一に必要なことは太陽を見ないことだ」(「風鳥」pp.220-221)
地中に埋まった樹根が地下水に保存されている巨大な水槽の横に,こんな展示パネルがあったのか。初めての訪問以来,何度も北陸には足を運んだのになかなか魚津には寄らずにいたのですが,ようやく再訪叶いました。
で,結論としては展示パネルはもうなかった。展示室はこの20年の間に何度もリニューアルされたそうです。そりゃあそうか。ちょっとがっかりしたものの,ショップにはレトロなポストカードセットや以前求めたのと同じブックレットなども売っていて,受付の人にパネルのことを尋ねたら,ええそうです,以前ありましたね,と優しく対応してくださいました。なんだか胸が熱くなって,これはこれで1篇の小説みたいだ,と思ってしまった。
海に面した魚津は蜃気楼の名所でもあり,屋上の展望デッキからは美しい海と,くるりと背を向けると壮大な立山連峰を望むことができます。展示水槽の神秘的な樹根の姿と相まって,なんだか幻想の街を旅してきたみたい。また行こう。何度でも。
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