2023-08-18

読んだ本,「路上の陽光」(ラシャムジャ)


  チベットの現代作家ラシャムジャ「路上の陽光」(書肆侃侃房 2022)読了。訳者解説によると,チベット語による現代文学の創作活動が本格的に始まったのは1980年前後のことだという。このチベット人作家が描き出す繊細な小説を繰りながら,時空を超えた海外の古典を読むのとはまったく異なるベクトルで「海外文学を読む」という愉悦を存分に味わう。

 8編の短編小説が収められている。「路上の陽光」「眠れる川」などはチベットの若者たちの日常が政治的な出来事とは少し離れた視点で描かれていて,感情移入しやすい。二部作の続きが気になる。しかし「風に託す」などは,中国による侵攻と弾圧,そしてチベットの人々の宗教観が色濃く描かれて,読者である私はつい「理解しよう」として力が入る。

 8編の中では「最後の羊飼い」が深く心にささるものだった。仏教の教えを大切にする15歳の青年のあまりにも美しく哀しい物語。「…結局みんなもう立派な大人だ,もののわかった大人だというわりには,やっていることは自分の手のひらほどしかない環境と,眼窩ほどしかないお椀の中で走り回ることくらいなのだ。そんな様子を見ていると,ツェスム・ツェランは生きとし生けるものとは何と憐れなものかと思うのだった。それとは逆に,普段から山の上で過ごす彼にとっては,果てしなく広がる大地は視界を広げてくれるし,広大な大地の静けさは心のざわめきを鎮めてくれる。こうして山の上で大きく静かなものの導きによって,徐々に果てしない空のような心の広さと山の廬のような穏やかさを見につけていった」(「最後の羊飼い」p.183)

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