「異形」かどうかは原書の英語を読んでみないとわからないとは思うが(この訳書を読む限り,ごくまっとうな短編集に思える),その形式が多彩であることには間違いなく,読み進めるのが実に愉しい時間だった。
箴言のような短いものも含まれるが,「物語」として魅力的な「ノックリー氏」や「裏のアパート」など印象に残るものが多く,長編も読んでみたくなる。
「大学勤め」はまるで私の物語のようだ。「私」は私のことなのだと錯覚する。他の短編もしかり。「彼女」は「私」であり私である。「もしも誰かが私のことをある言葉で説明すると,それで私という人間が完璧に説明されたように見えるが,じっさいのところそれは私という人間を完璧に説明してはいなくて,もし私という人間の完璧な説明があるとするなら,そこには私が大学勤めをしているという事実と相容れないものも含まれているということなのだ。」(「大学勤め」 pp.185-186)
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