確かにすらすらとは読めるのだけれど,あとがきには,小説家ル・クレジオはラウル・ル・クレジオ医師を「ひとりの父親の枠のなかに囲いこもうとしていない」,「《ポスト・コロニアリズム》の先駆者の像を見たのだった」,その点で,この「アフリカのひと」は一篇の回想記の域を越えるのだ,とある。(pp.169-172)
そして全編を通して,彼の作品に通底する大地と自然への畏怖が,少年時代にアフリカという大地で身につけたものであることが伝わってきて感動的ですらある。「さまざまな身体の匂い,手ざわり,ざらざらしてはいないが温かく軽やかで,たくさんの体毛が逆だっている肌。私のまわりのさまざまな身体の大変な身近さ,その数の多さを私は今も感じている,なにかそれ以前には私の知らなかったもの,恐ろしさを取りのぞく,なにか新しいと同時に親しみやすいものを。」(「身体」p.15)