2024-10-20

2024年10月,東京千駄ヶ谷,「天鼓 弄鼓之楽」



 体調がすぐれないまま,時間ばかりが過ぎてしまいます。暗いトンネルの中で行きつ戻りつしているような日々ですが,少しずつは前進しているよう。何か楽しみがなければ,と国立能楽堂の10月普及公演のチケットを予約して,楽しみに出かけました。

 晩夏のような陽ざしと気温でしたが,中庭には萩が開花していました。この日の番組は狂言が三宅右近シテの「舟渡聟」と,能は「天鼓 弄鼓之楽」。シテは梅若紀彰,ワキの勅使は福王和幸師。福王さんの美しい舞台を見ると沈んだ気分も吹っ飛びます!

 「天鼓」はたぶん初見です。素筋によれば「美しい音の出る鼓を持つ少年・天鼓は,帝の命に背き呂水に沈められます」とあり,となれば成仏できない魂が舞う哀しい話なのかと思いきや,これが正反対。弔いの管弦講に現れた天鼓の霊は,帝の御弔いによって成仏したことに深く感謝し,本当にありがたいと言って鼓を打ち,舞うのです。

 その舞楽はゆったりと始まり,次第に速まるテンポに乗って,少年らしい明るさに満ちています。老親との別れを嘆くというよりも,やがて輪廻転生してまた親子の縁を結ぶ日を鼓の音とともに楽しみに待つとでもいうのか,夜明けとともに消えていく姿は希望にも満ちて。

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