「地衣類,ミニマルな抵抗」(ヴァンサン・ゾンカ著 宮林寛訳 みすず書房,2023)読了。不思議な書物だ。どんな風に不思議なのか,植物分類学の博士である大村嘉人氏のまえがきから引用させてもらうと,「本書は,地衣類を通じて,時や空間を超えて異なる世界あるいは文化を繋げようとしている。扉の先には,地衣類が紡ぎだす様々な世界が広がっている,さあ,異国への旅が始まる」という一文に凝縮されているようだ。
異なる世界あるいは文化を繋げるという意味で,古今東西の文学作品からの引用が多い。第一部第二部でそもそも地衣類とは,という視点からその文化的表象を紡ぎ,様々な国の現代詩人と美術家の仕事を紹介する第三部がめっぽう面白い。そして,第四部では科学的な地衣類像から現代社会における「協働」や「共生」の概念へと展開される。
地衣類・文芸(特に詩)・美術に興味があってこの本を手に取った私のような読者は,第四部はそこまでとはちょっと異質な内容に感じられてしまうが,この「共生」の概念こそ,この分厚い本のメッセージらしい。時間をかけて読み終えて,軽く肩透かしをくらったような,やや徒労感の残る読書体験だった。
第二部「記載し,命名し,表象する」における日本のワビサビと苔や地衣類をめぐる考察はとても面白く読んだ。「生育が緩慢な地衣類だからこそ,自然の中に流れる時間を告げ,その時間を計る尺度となって,自然の永遠性についても,その不安定さについても,時間の跡として物に残された古色や錆についても,あるがままに伝えることができるのだ。」(p.115)
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