真夏の一日,金沢市に昨年10月開館した鈴木大拙館に行ってきました。谷口吉生の設計です。「大拙についての理解を深めるとともに,来館者自らが思索する場として利用することを目的に開設されました」(同館チラシより)ということで,館内には「展示空間」「学習空間」「思索空間」があり,館の外には「玄関の庭」「路地の庭」「水鏡の庭」があります。
鈴木大拙(1870-1966)は金沢に生まれた世界的な仏教哲学者。初めて読んだ著作の「禅と日本文化」(岩波新書)は英語で書かれたものの日本語訳です。かなり前に一読したものの,内容を理解できたとは思えず,今では何が書いてあったかほとんど思い出せませんが,照明の抑えられた静かな回廊に導かれて展示空間へ。
展示空間には大拙の著作がずらりと並び,書や写真などが展示されていますが,それぞれにキャプションの類は一切ありません。「見て,そして感じてほしい」ということのようです。部屋の片隅にタッチパネル式で読める解説は用意されています。
自由に著作を手に取ることができる学習空間を経て,水鏡の庭に面した思索空間へ。大拙の思想を具現化した空間で,静かに時を過ごしました。思索にふけるというよりは,ぼんやりとですが。(これは個人の資質の問題。)池の中央では3分に1回,丸い水紋が広がる仕掛けがあって,周囲の石にその波紋が反射して幻想的です。
大拙が禅僧・仙厓の作品に影響を受けて,仙厓論を著したという経緯は来館して初めて知りました。9月には「仙厓と大拙」という展覧会が開催されて,「○△□(丸・三角・四角)」(出光美術館蔵)も展示されるそうです。三角の天窓や丸い水紋など,建築家の仕掛けにも気付くと興味が広がります。
最後に,大拙のことば‐「最も有効な行動は,ひとたび決心した以上,振り返らずに進むことである。」(「禅と日本文化」(岩波書店)よりの引用。同館リーフレットより。)