2013-10-06

2013年10月,横浜みなとみらい,「横山大観展 良き師,良き友」

 横浜美術館で始まった「横山大観展 良き師,良き友」(11月24日まで)を見てきました。横浜美術館の展示室はガラスケースを用いた重厚な雰囲気になっています。天井の照明デザインがとてもかっこいい。ガラスへの映り込みがちょっと気になります。

 しかし,「屈原」(1898)の前に立つと,ぼんやりと映り込む自分の姿など視界から追い出されてしまうよう。「屈原」とは事実無根の誹謗によって追放され,川に身を投げて死んだ中国戦国時代の詩人であり,楚国の政治家でもあった人物。大観はこの詩人に,誹謗の怪文書で東京美術学校校長職を追われた(天心事件),師の岡倉天心の姿を重ねて描いたということ。(厳島神社の所蔵で,展示は10月16日まで。)

 屈原の手には「高潔」を象徴する蘭,そして背後には人を中傷する卑しい輩を象徴する黒い鳥と,小心を象徴する白い鳥が描かれています。この二羽の鳥の眼つきはいやらしく,おぞましい。そして蘭の花は生気を失い,毅然とした表情の詩人も,魂はもはや彼岸に在ることを暗示しているかのように見えます。ガラスに映り込む私の存在は,この絵の中のどの「生」の姿に似ているだろう。
夜間特別鑑賞会に際して特別に撮影許可されました)
  今回の展覧会はタイトル通り,大観の画業を「良き師」岡倉天心の影響と,「良き友」今村紫紅,小杉放菴,小川芋銭,富田渓仙との交流に焦点をあてながら辿る,というもの。なにしろ「大観」は大きすぎてつかみどころがない印象を持っていたので,「一つの見方」を提示してもらえて「わかりやすい」展覧会でした。ガンジスの美しい女性を描いた「流燈」,「東海道五十三次合作絵巻」,漱石が賞賛した「瀟湘八景」,「生々流転」の習作などなどが印象に残ります。

 ところで,先述の「天心事件」は美術界の一事件くらいの認識しかなかったので,調べてみると,おお,そんなスキャンダラスな出来事だったのか!とびっくり仰天。おもしろそうな本がたくさんあるようですが,「大観伝」(近藤啓太郎,講談社文芸文庫,2004)が読みやすそう。注文したものの,書棚は読みたい本であふれかえっているので,順番に(いつになることやら)。
 

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