「葉書でドナルド・エヴァンズに」(平出隆著, 作品社 2001)を手に入れたのはいつのことだっただろう。平出隆という詩人に強く関心を持つようになったのは,彼の詩作と,彼自身が版元として発行するvia wwalnuts叢書の名前が私の中で結びついた,ほんのここ数年の間のことだ。
某マーケットプレイスなどでは稀少本としてかなり高価で流通しているこの本が,思いがけず私の所蔵するところとなった経緯は些か面映ゆいので省略するとして,なにしろそれ以来,幾度となく繰り返しページをめくりその世界を堪能している1冊。
ドナルド・エヴァンズ(1945-1977)は架空の国の切手を発行し続けて,アムステルダムの友人のアパートメントに滞在中に火事で亡くなった画家。死後遠い東の島国で開かれた個展で彼の作品に出会った詩人は,画家の生涯とその作品を追い続けて,旅をする。アメリカへ。アムステルダムへ。この本には,詩人が「死後の友人」として1985年から1988年にかけて画家に宛てた葉書が日付順に並ぶ。
「もうひとつの世界の切手に残る,ひとちぎりの跡。消印の香り。/ドナルド・エヴァンズ,あなたの場合,その「秩序」は切手というかたちそのものでした。あなたが切手という形式を自分のすべてとしたとき,その秩序は,現実の世界の秩序と似かよいながら別の秩序となったようです。しかもそれは,この世界から別の世界へと連なる秩序なのです。ぼくの詩はといえば,この世界の中にあってこの世界の筋をたがえさせようとするのに,あなたはぼくなどよりもはるかに自由に,別の世界へと連なる美しい筋を見つけ出し,それをさりげなくたがえさせていく。(後略)」(1986年1月17日の日付,p.44より引用)
そして,旅の最後にランディ島へ渡った詩人は,奇蹟を目にする。そのドラマチックな場面は,「もうひとつの世界」にいる画家の魂と詩人の魂が邂逅する瞬間である。そしてその場に居合わせた読み手=私の魂もまた,書物という「もうひとつの世界」にいる詩人の魂と共振する瞬間なのだ,と勝手に思い込んでいる。
さてさて,実は今月末から数日間,アムステルダムを訪れる予定です。私も詩人の顰にならい,エヴァンズを,そして平出隆の旅を辿ってみようと思っています。
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