2014-12-20

2014年12月,東京竹橋,「奈良原一高 王国」展

  一気に冬がやってきて,背中が丸くなる日々。竹橋の近代美術館で「奈良原一高 王国」展が開催されています。北陸に大雪をもたらした寒波の一日,東京の冬の空。
 
 奈良原一高は7月に島年県立美術館で「スペイン・偉大なる午後」を見たばかり。たしかその時に,「王国」からも数点出展されていた気がします。この修道院のシリーズをまとめて見てみたいと思っていたところだったので,とても嬉しい。
 
 トラピスト修道院(北海道)で撮影した「沈黙の園」と,和歌山県の女性刑務所で撮影した「壁の中」の二つのパートで構成された「王国」は,1958年の発表というから,半世紀近く前の作品ということ。
 
 被写体の好みで言ってしまえば,「沈黙の園」に圧倒的に惹かれますが,どちらも外部の世界とはまったく遮断された空間です。
 
 展示解説によると,奈良原一高は「(略)ともに閉ざされた壁の中の世界…、そのような壁は日常の心の中にもとらえがたい疎外の感覚となって介在していて,当時の僕はそのような自分の内部にある不安と空しさをこの「王国」の場をみつめることによって超えようとしていた」(「20年目のあとがき」(1978)より孫引き)のだと言う。
 
 時間を超えて,今,これらの写真がまったく古びずに観る者の心に迫ってくるのは,「日常の心の中のとらえがたい疎外の感覚」そのものが,人間の生につきまとうなかば必然的な感覚であるからに違いないのだろう,と展示室の片隅でぼんやりと考えていました。
 
 とりわけ興味深かったのは,修道院の建物の窓や開口部を,内側と外側からそれぞれ撮影して並べて展示した一連の写真。そこに人間が写っていてもいなくても,奈良原一高のカメラがとらえたのは人間の存在そのもの。そして写真家は写真集のタイトルに「王国Domains」と名付けたのです。

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