某イベントで著者と東京大学出版会の編集者との対談を聴講する機会があり,興味をひかれて手にとり,時間をかけて読了。学術書の難解さはなく読みやすく書かれているものの,内容は深く,とても勉強になった。
前述の対談で編集者がその重要性を語っていた帯の惹句がこの本の魅力を語りつくしている。「小説家って、けっこう人が悪いんですね。 嘘と謀略、善意と愛―語り手の「礼節」から、英語圏の作品を大胆に読み直す。」この「礼節」=politenessが本書を貫くキーワードになっている。
とりわけ興味深く読んだ章のタイトルをいくつか。第6章 登場人物を気遣う―ナサニエル・ホーソーン『七破風の屋敷』(1851)。第9章 目を合わせない語り手―ウィリアム・フォークナー『アブサロム、アブサロム! 』(1936)。第10章 冠婚葬祭小説の礼節―フランク・オコナー「花輪」(1955)、ウィリアム・トレヴァー「第三者」(1968)。第11章 無愛想の詩学―ウォレス・スティーヴンズ「岩」(1954)
原典の引用も多く,是非読んでみようという気持ちになる。まずはオコナーの「花輪」からだろうか。初めて聞く名前だったスティーヴンズWallace Stevensの詩にもすこぶる惹かれた。「個別のものがたどる道」("The Course of a Particular")の引用(日本語訳)から部分を孫引きします。
(略)木の葉が声をあげる…自分は身を引いてその声を聞くだけ/それはせわしない声 誰か他の人にかかわる声/そして自分はあらゆるものの一部だと言うにしても/葛藤がある 何か抵抗がある/一部であるというのは拒絶の振る舞い/今あるこの命を与える命のことを感じる/木の葉が声をあげる/それは神聖な注意の声ではない/ぷっとタバコの煙を吐くヒーローたちからのたなびく紫煙でも 人の声でもない/それは我が身を越えることのない木の葉の声(pp.234-235)
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