2019-11-15

読んだ本,「掃除婦のための手引き書」(ルシア・ベルリン)


  ルシア・ベルリンの短編集「掃除婦のための手引書」(岸本佐知子訳 講談社 2019)を読了。あちこちの書評で絶賛されていたのと,美しい装丁に惹かれて読み始めた。しかし,すぐに後悔した。この書物が孕む世界に共感のひとかけらも感じられない。
  ルシア・ベルリン自身の体験をもとにしたフィクションだという。「わたし」は結婚・離婚を繰り返し,自らアルコール依存症に苦しむ四人の息子のシングルマザーである。掃除婦や看護師,高校教師などで生計をたてる。
 
 なぜ高校教師になれるのかという根本的な疑問はある。しかし,読者のそんな疑問など「わたし」の人生に何の関係があるの?と言わんばかりの熱量に圧倒されて,途中で投げ出すこともできない。
 
 そして,24の短編を読み進め,22番目の「さあ,土曜日だ」を読み終えたときにこう思った。ああ,投げ出さなくてよかった。刑務所の文章のクラスが舞台となり,老齢の白人女性が囚人たちに課題を与え,彼らは文章を書き,朗読し,講評しあう。
 
 「…先生は言った。べつの日には,犯罪者の頭と詩人の頭は紙一重だ,とも言った。『どちらもやっていることは,現実に手を加えて自分だけの真実をつくり出すってことだから。あなたたちには細部を見る目がある。部屋に入って,ものの二分ですべての人と物を見極める。嘘を鋭く嗅ぎわける力がある』」(pp.246-247) 

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