2020-03-22

読んだ本,「あとは切手を,一枚貼るだけ」(小川洋子 堀江敏幸)

 堀江敏幸の新刊を探して,えっと驚く。小川洋子との共作らしい。実のところ,小川洋子は苦手な作家なので,読もうかやめておこうかと逡巡した。そして読み終えて,複雑である。なぜ共作なのだろうか。どういうプロセスでこの話を二人で構築したのだろうか。
 かつて恋人同士だった「私」と「ぼく」の往復書簡の形の小説。「私」を小川洋子が,「ぼく」を堀江敏幸が担当している。それぞれの文体の特徴がそのまま手紙となって綴られているのだが,話の展開がそれぞれの方向に向かってしまい,表面的には往信と返信になっているのに,二人とも自分の語りに陶酔しているような印象を受けてしまう。
 
 「私」の病気,姪っ子の事故,そして生まれてこなかった命。なんとなく苦手な路線で,最後までようやく読み終えたというところ。ただ,小説の細部やモチーフにはいつもの堀江作品と同様,惹かれるものがいくつかあった。オクタビオ・パスの短編と,盲目の写真家ユジェン・バフチャル。
 
 それに対して,小川洋子が「ドナルド・エヴァンズとジョセフ・コーネルは同じ島の住人」と断言している部分には,何でそうなるかな?と呆れとも怒りともつかない感情がわく。
 
 「時間を消すには,写真を消せばいい。小鳥が箱から飛び出してこないように,箱そのものを破壊すればいいのです。」(p.242 「十二通目」(堀江敏幸))

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