昨年,夢中で見ていた大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の最終回について,脚本家の三谷幸喜自らが「アガサ・クリスティーのある作品に影響を受けた」と発言。そう言われると読みたくなるじゃないか,というわけでネットで推定されていた「鏡は横にひび割れて」(橋本福夫訳 早川書房)を読了。
なるほど,確かにあの最終回の展開を連想させる内容で,あっという間に読了。ミステリー小説の筋を追うことは野暮というもの。それよりもこのタイトル,そうか,テニスンだ!「シャルロット姫」だ!
織物はとびちり,ひろがれり/鏡は横にひび割れぬ/「ああ,呪いがわが身に」と,/シャロット姫は叫べり。(p.141)
マリーナ・グレッグが「何か」を見たときの表情を,居合わせたバートン夫人がミス・マープルに説明する際に例えとして挙げた詩篇の一節。「近頃の人はテニスンなんて古臭いというけれど,わたしは若いときには心をときめかせて『レディ・オブ・シャロット』を読んだものだし,いまだってそうなのよ」(p.111)
バートン夫人,私も思わす心がときめきます,と頁を繰る手に力がこもる。ロンドンのTateで見たPre-Raphaelitesの展覧会、2012年のことだからもう10年経つとは。思わず図録を探し,ウィリアム・ホルマン・ハントのThe Lady of Shalottの頁を凝視。
解説文には小説に引用されている部分の原詩も掲載されている。Out flew the web and floated wide; The mirror crack'd from side to side; "The curse is come upon me" cried The Lady of Shalott.("Pre-Raphaelities" Tate Publishing 2012 p.224)そして,Tate所蔵のJ.W. WaterhouseのThe Lady of Shalottも思わず探し出す。ボートに乗ってキャメロットへ,畢竟,死へ向かう姿が描かれたその大画面の油彩画は,魂を揺さぶる迫力だった。Phaidonの画集は確か下鴨神社の古書市で購入したもの。
鎌倉殿からなぜかロンドンTateへと,予期せぬ旅をした気分。楽しい読書時間だった。思わず,鎌倉殿ありがとうございます,と独り言ちてしまう。
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