2023-12-26

今年のベスト本2冊,「中国の死神」(大谷亨)・「それは誠」(乗代雄介)

 2023年もあと少し。今年は人生で大きな区切りの年,のはずだったけれどもそれほど劇的な変化がないままに年の瀬を迎えてしまった。ストレスの要因だった満員の通勤電車に乗らなくてよくなったことはとてもうれしい。その分,時間がたっぷりできたはずなのにだらだらと過ごしてしまい,来る年は時間の使い方を見直さないと。

 読書は実り多き一年。ノンフィクションでは最近読んだ「中国の死神」(大谷亨著 青弓社 2023)が何と言っても面白かった。中国の死神(寿命が尽きようとする者の魂を捉えにくる冥界からの使者=匂魂使者)である「無常」について,2年半のフィールドワークでその姿に迫り,妖怪から神へと上り詰めるプロセスが詳説される。

 詳説とはいえ,博論をリライトしたという文章は軽快で面白く,頁を繰る手が止まらない内容だった。章が進むに連れて無常の歴史的・空間的な特徴が分化・収斂して明らかになっていくのが見事で,なるほど民俗学の方法論とはこういうものなのか,と素人に教えてくれているようだ。中国版ヌリカベ=「摸壁鬼」という妖怪の存在(?)について知ることができたのも大きな喜び! 参考文献のページには読んでみたい本が綺羅星のごとく並ぶ。

 フィクションでは海外・国内を含めて「それは誠」(乗代雄介)がとても面白く,最近ある文学賞を受賞したというニュースを見て,読み返した。これで都合3回目(!)。何度読んでも同じ場所で心が震える。リンクを貼ろうとしてあれっと驚く。この小説の忘備録をここに残していなかった! 読書する時間も忘備録を書く時間も来年からはちゃんと自己管理しなくては。

 吃音の友人の松が自分のことを「やさしい」と話していたことを知った誠はこう書く。「松にしてやれることなんて何もない。何もないけど,僕がどこまでも孤独であろうとするなら,回り回って松のためになるかも知れない。『僕も孤独だ』って言うのか『僕は孤独だ』って言うのか,はたまた押し黙っているだけなのか,そんなことはわからないけど,とにかく僕はこの世界のために孤独なんだ。そう信じることで何かし続けるなら,僕は世界を,世界は僕を,共に支えることができるだろう。それをやさしいと勘違いするなら,勝手にすればいい。」(文学界6月号掲載 pp88-89) 

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