2013-07-24

2013年7月,東京ドイツ文化センター,「ヨーゼフ・ボイスの足型」を読む

 東京ドイツ文化センター図書館で開催された「『ヨーゼフ・ボイスの足型』を読む」というイベントを聴講してきました。みすず書房から出版された同書の著者の若江漢字氏と酒井忠康氏の対談です。休憩をはさんで約2時間,ドイツ語書籍や関連する日本語書籍に囲まれた美しい空間で繰り広げられた対話にじっと耳を傾ける。

 ヨーゼフ・ボイスにはこれまで強い思い入れはなかったのだけれど,昨年11月に訪れたミュンヘンのピナコテーク・モデルネで見たThe End of the 20th Century(20世紀の終焉:独タイトルDas Ende des 20. Jahrhunderts)は圧倒的な迫力でした。そして5月に国立国際美術館のフルクサス展で見た小さな木箱。Intution「直観」と鉛筆で書かれたその作品は不思議な磁力をたたえ,一体この作品にはどんな意味が込められているのか,ボイスはフルクサスのメンバーだったのか,という驚きとともにずっと心の片隅にひっかかっていたのです。

 みすず書房の新刊案内とイベント案内を見て,これはボイスを知る絶好の機会と,すぐに申し込んだ次第。対談が始まると,飄々とした雰囲気のお二人がボイスの人と作品を,その思想とともに縦横無尽に語ります。若江氏が「ヨーゼフ・ボイスの足型」を取るまでの過程とその後のいきさつは一遍の映画を見ているよう。ボイス邸の中庭で撮影された写真はまるで聖人と使徒みたい。
  会場で買い求めた「ヨーゼフ・ボイスの足型」は,ボイスの基本原理ともいえる「膏(あぶら)注がれし者」のエピソードや「社会彫刻」の意味など,ボイス理解への深い示唆に富む1冊です。「ボイスの作品は社会改革のツールであるばかりか,神のごとき人間へ人を進化させる促進剤でもあった。ボイスは直観を研ぎ澄ますことで,錬金術の本質である『汝ら自らを生ける賢者の石に変えよ』に,人々を誘うのである」(略)「ボイスの業績をあらためて分析すると,芸術家(=社会思想家)→作品(社会改革の道具)→直観(常民の覚醒)→進化(の促進)→オメガ点到達の図式が浮かびあがってくる」(p.123より引用)という若江氏の一節を読んで,あの「直観」と書かれた木箱を思い出す。あれは「覚醒せよ」というメッセージだったのだろうか。

 まだまだ刺激を受けた内容が盛りだくさんで,きりがないのでこの辺で。ドイツ文化センターはシンプルで頑丈でとても気持ちのいい建物でした。休憩時間にはよく冷えたドイツワインも振る舞われて(無料のイベントなのに),これまたいい気分に。ワインの勢い(!)で酒井氏に署名をお願いするわ,会場でボイスのカードも数枚頂くわ,もはや夢心地で帰路につきました。若江氏が運営する「カスヤの森現代美術館」はこの夏ぜひ訪ねてみたい。
 

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