古書店特集の雑誌を見て,渋谷のFlying Booksにでかけてみました。1階に古書サンエーが入る渋谷古書センターの2階にあります。1階と2階は別の経営かと思ったら系列店のようです。
まずは1階の古書サンエーを物色していたら,外国文学の棚に北園克衛装幀の白水社「新しい世界の文学」シリーズがずらりと並んでいるのを発見。おお,これは期待度大。マルグリット・デュラス「ロル・V・ステーンの歓喜」(白井浩司訳, 1976)を購入。難解と評されている小説です。河出書房新社から1997年に平岡篤頼による改訳版が出ています。
ロル・V・ステーンはT海岸での舞踏会の夜,婚約者のマイケル・リチャードソンをアンヌ=マリ・ストレッテルに奪われ錯乱し,狂気の世界へ足を踏み入れます。10年後,故郷に戻り旧友のタチアナとその愛人ジャック・ホールドに出会い,3人の奇妙な関係が続く中,人間の孤独が浮き彫りになる…というのが物語の流れではあるのですが,そもそも語り手の「私」が一体だれなのか,男なのか女なのか,ようやく明らかになるのはかなり読み進めてから。そしてこの「私」は物語を語るばかりでなく,ロル・V・ステーンの心の中をも自由自在に語ります。そしてle ravissement=「歓喜」の意味は?「私は彼女に反対しない。彼女には私が誰であるか認められない,もうぜんぜん認められない。『この人は誰なの,もうわからなくなったわ。』それから彼女は私を認めない。」(p.276より引用)
たしかに難解ではあるのだけれど,三角関係とか嫉妬という言葉には収まらないデュラスの狂気の世界にどっぷりと身をゆだねるのもまた,亜熱帯の夜を思わせる夏の一夜の気分としては心地よいものです。
2階のFlying Booksではイザベル・アジェンデの短編集と吉田秀和「調和の幻想」を購入。
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