2013-12-25

2013年12月,栃木足利,「詩人と美術 瀧口修造のシュルレアリスム」展

 冷たい風が吹き抜ける冬の一日,特急りょうもう号に乗って一路足利へ。会期の最終日に「詩人と美術 瀧口修造のシュルレアリスム」展を見に足利美術館へ出かけました。足利市駅までの約1時間,ほとんど車窓から冬の風景を眺めて過ごす。駅からは渡良瀬川を渡って美術館へ。冬の川辺。
 
 今回足利まで足を運んだのは,瀧口修造が1958年のヨーロッパ旅行中に撮影した写真の展示がお目当てです。彼は旅行中,1200枚もの写真を撮影していたのだそう。それらがアーカイブ化され,2005年に慶応大学来往舎ギャラリーで開催された「瀧口修造1958:旅する眼差し」展を見逃したことが,いつまでも心残りだったのです。
 
 というわけで,会場1階の第1章「瀧口修造のヨーロッパの旅 1958」に足を踏み入れて,肝心の写真の数が少ないことに少々落胆する。19点の写真が展示されていました。しかもプリントがアクリル板に裏打ちするパネル仕立てになっていて,何やら旅の資料然としています。「瀧口修造の写真」を観ている,という感慨があまり湧いてこなかったのが正直なところ。
 
 それでも,雨のマドリッドやアムステルダムのボートハウスなど,半世紀前の詩人の眼差しを共有できて,しばし時空を旅する。図録には詳しい旅程も掲載されていて,とても嬉しい。いつか辿ってみたいものです。
 
 2階会場はシュルレアリスムを通覧する充実の展示。瀧口修造本人のデカルコマニー作品「私の心臓は時を刻む」より「わたしにさわってはいけない」(富山県立近代美術館蔵)は何度見ても釘付けになります。そして,フォンタナやベルメール,エルンストらの展示へと歩みを戻してみると,いかにそれらが彼の創造に多くのインスピレーションを与えたかがよくわかります。なんともスリリングな展示。
 
 最終章の野中ユリのデカルコマニーに添えられた瀧口修造の詩篇「星は人の指ほどの」を見て,おや,と思う。「若い生命の小指を賭けた狩り!/『われらの獲物は一滴の光だ』と詩人はいう」という一節があります。「われらの獲物は一滴の光」は数年前に新宿のphotographers' galleryで開催された高梨豊と吉増剛造の写真展のタイトルではなかったか。てっきり,その写真展に即してつけられたタイトルと思っていたけれど,瀧口修造が「詩人」と詠んだその人は一体誰?
 帰宅して検索することしばし,その詩人が判明しました!フランスの詩人ルネ・シャールによるものだそう。早速詩集を図書館に予約。この正月休みはしばし,フランスのシュルレアリスム詩人について思いをめぐらそう。
 
 蛇足ながら,足利市美術館では12月初に吉増剛造氏による「瀧口修造 旅する眼差し」という講演が行われ,ヨーロッパ旅行の写真のスライド上映があったのだそう。見たかったなあ。またしても痛恨の極みです。(第九の練習でいっぱいいっぱいでした。) 

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