定刻ぴったりに,首藤氏がにこやかにそして軽やかに現れると,会場には歓声ともため息ともつかない声が溢れます。舞台に立っているときの,神々しいまでに張り詰めた雰囲気とは違うけれど,それでもどこか異界の人というオーラが漂っていて,間近にいるのに思わず視線をそらしてしまう。
この日のトークで印象深かったのが,バレエを始めるきっかけとなった少年時代の観劇の話。DVDにもその思い出を語るシーンがありますが,「とにかく舞台というものに惹かれたのです」と語ります。緞帳があって,その向こうには「もう一つの世界」があって,とにかくそこに立ちたいと思った,と語るその言葉にはっとする。
首藤康之というダンサーが舞台に立つとき,観客である私は,しばしこの世を忘れてしまう。この「選ばれし美しい人」(DVDコピーより)の手は,足は,その身体のすべてはもう一つの世界に存在しているのだ。
和やかな質疑応答の時間も過ぎて,サイン会の時間になりました。(年がいもなく)ドキドキしながら順番を待ちます。大ファンです,とかこれからもがんばってください,とか何か言葉にしてみようかとも思いましたが,ぺこりとお礼だけをして帰りました。軽々しく踏み越えてはいけない結界を前にして,凡庸な言葉は小石ほどの力も持たない。
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