ウィン・バロックWynn Bullock。聞き慣れない名前だな,と思いながらも美しいモノクロームのヴィンテージプリントを順に眺めていると,1枚の写真の前で思わず足を止めます。深い森の中に裸の少女が横たわる1枚。森に抱かれている少女の身体からは白い光が発せられているよう。子宮の中で微睡んでいる胎児のようにも見えてきます。それにしても,このあまりに印象的な写真をどこかで間違いなく見たことがあるのですが,それがどこでだったかどうしても思い出せない。
時間がたつと,この写真を見たのは展覧会ではなくて,写真集や図録の中だったような気がしてきて,とにかく書棚の写真集を片っ端からめくるめくる。そしてようやく,「横浜美術館叢書1 ヌード写真の展開」(二階堂充,天野太郎,倉石信乃著,有隣堂 1995)の第2章「写真芸術の成立とヌード」(倉石信乃)の中に発見。(p.52より。図版右上)
エドワード・ウェストンの継承者として,ハリー・キャラハン,ウィン・バロック,マイナー・ホワイトの3人とそれぞれの代表的な写真が紹介され,ウィン・バロックの作品に見出されるのは「ウェストンの写真ではしばしば抑制されていた,自然が自ら描きだす光景の人為を越えた荒々しさや不可思議さを,より演劇的により神秘的に描くことだろう」(P.51)と指摘しています。
さらにこの1枚「森の中の子供Child in Forest」に関しては,「自然と人間との同一化を深淵な森に子供が横臥するという情景に託し」ていると指摘。なるほど!勉強になりました!という感じで本を閉じます。予備知識もなくふらりと入った写真展で,大きな収穫を得た気分になりました。これぞ「われらの獲物は一滴の光」。