国書刊行会のバベルの図書館シリーズ(2013年に新編が出版された)の1冊,「人面の大岩」(ナサニエル・ホーソーン著,酒本雅之・竹村和子訳 1988)を読了。「ウェイクフィールド」「人面の大岩」「地球の大燔祭」「ヒギンボタム氏の災難」「牧師の黒いベール」の5編が収められている。
どの短編も現実の裏側や真実の内側を容赦なく描き出す。登場人物はみな,変人のようでもあり,どこにでもいる普通の人のようでもある。「ウェイクフィールドWakefield」は「世の夫たちのなかでもいちばん忠実な」夫だが,ある日ちょっとでかけてくると言い残して家を出たまま20年帰らない。そしてすぐ隣の通りのアパートに住んで,妻の様子を観察し続けるという「蛮行」を行う人間なのだ。
若いころはホーソーンの英語が難解で,文の意味を追うだけで精一杯だった記憶しかないが,年を重ねて日本語訳でゆっくり読んでみると,こんなに魅力的な作家だったのかと改めて瞠目する。
学生時代に買った酒本先生の「ホーソーン 陰画世界への旅」(酒本雅之著 冬樹社 1977)を探し出して合わせて読み返してみた。小説世界を深く読み解くことは人の生そのものだと思わずにいられない。同著の冒頭の部分を引用させていただく。
「ナサニエル・ホーソーンNathaniel Hawthorne(1804-64)が人間を見る目は,このうえなく冷厳でありながら,同時にこのうえなく暖かくもある。考えてみると,これはなんとも奇妙なことだ。彼の目で見られると,原形を無傷のままで維持できるものは何一つない。肉眼ではどんなに清らかに,あるいはどんなに美しく見えるものでも,いったんホーソーンの稀有な透視力にさらされると,内面にひそむ汚れた真実をとたんに露呈してしまう。」(同著P.5「闇の透視」より)
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