のどかな田園風景の中に突然現れる硬質な建物は,高松伸の設計です。様々なメディアからの予備知識があったとはいえ,巨大レンズを備えて壁面に「逆さ大山」が投影される映像展示室や,展示棟の間から見る美しい山の姿と静かな水面など,想像以上の空間体験に興奮です。
1階の常設展示室では植田正治の生涯をたどるように代表作が並び,意外と,と言っては失礼だけれど,観客の数が多くてちょっと驚く。そして昨年の東京都写真美術館での展覧会にも出品されていた1枚,「風景の光景」シリーズの腐ったリンゴを写した写真の前で足が止まります。
写美の展示ではジャック・アンリ・ラルティーグの躍動感に引きずられていたのか,このリンゴの写真にはそれほど惹かれなかったのですが,植田正治の仕事の流れの中でこの写真にたどり着くと,何か切迫した迫力みたいなものを感じてしまう。このリンゴはそこにあったものなのか,写真家が意図してそこに置いたものなのか。なぜ,そこに腐ったリンゴを置いてそれを撮影したのか。そんな疑問は愚問だ,といわんばかりの完全な画面に圧倒されます。
東京の乾燥した冬に見るのと,山陰の夏の湿気の中で見るのとでは,私の思考回路も別の動きをするのかもしれないな,と妙に納得して美術館をあとにすることにして,次は松江に向かいます。
0 件のコメント:
コメントを投稿