先月のこと,目白の学習院大学史料館で8月12日まで開催されていた「春の戴冠・嵯峨野明月記」展を見てきました。辻邦生の命日は「園生忌」として読者の胸に刻まれています。
若いころに夢中になって読み,著作を集め,しばらく遠ざかっていたけれども,また最近になってああ,いいなあと読み返すことがしばしば。学習院キャンパス内の瀟洒な建物の展示コーナーは,思っていたよりもずっと小さい規模でしたが,熱心な読者の姿がそこここに。閲覧室には著作を集めたコーナーも。うん,これなら私の書棚の辻邦生コーナーの方が充実してるぞ,と独り悦に入る。
展示されている小説の構想メモや日記の,細かくびっしりとした文字に圧倒されます。「絶えず書く人」であった小説家の,眉目秀麗なる若かりし頃の写真にも。いろいろ考えることが多く,簡単にまとめることは容易ではないので,ここでは展示室でメモをとった作家の言葉を忘備録として。
「在る人がそこにいない。それを取り戻す」「不在から「在ること」の不思議を知る。この「在ること」の手ざわりを描き出す。「在ること」は「内なるもの」の枠としてあり,真存在は「内なるもの」である」「内なるもの」をなるだけあらわにするのが作家の仕事だ」(創作メモ1970~71より)
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