2019-03-02

読んだ本,「すべての、白いものたちの」(ハン・ガン)

  「すべての、白いものたちの」(ハン・ガン著 斎藤真理子訳 河出書房新社)を読了。ハン・ガンの著作を読むのは初めて。訳者の斎藤真理子氏の仕事に関してはいろいろなところで絶賛する記事を読んでいたので,期待度満点,そして読み終えてひたすら感服している。ハン・ガンの描く世界に,そして訳者の見事な手腕に。

  原著タイトルの「흰(ヒン)」は「白」を意味する。本の装丁も5種類の白い紙を使った造本もひたすら美しく,哀しい。

 この本は短編集でも詩集でもない。断片的な文章と,ところどころに写真が挿入され,さまざまな「白いもの」が登場する。「白」は産着であり,白装束であり,雪であり,鳥である。「すべての白いものたち」を丹念に集めていく行為は,死者を悼む行為であり,そして死者とともに生きていく行為なのだ,ということを全編を通して読者は知る。

 「白く笑う」など,韓国語独特の表現も覚えた。「途方に暮れたように,寂しげに,こわれやすい清らかさをたたえて笑む顔。またはそのような笑み。」(p.101) なんて美しい日本語訳だろう。

 ただ,ハン・ガンにとっての「死者」の存在はあまりに重く暗く,そして哀しすぎる。読者である私にとっても個人的に辛い想いが被さってきたのだが,ハン・ガンは静かにその存在に別れを告げて,生きていく。ああ,そうだ,生きていけばいいんだ。

 「しなないで しなないでおねがい。/言葉を知らなかったあなたが黒い目を開けて聞いたその言葉を,私が唇をあけてつぶやく。それを力こめて,白紙にかきつける。それだけが最も善い別れの言葉だと信じるから。死なないようにと。生きていって、と。」(p.175「わかれ」)

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