二人のプライベートな書簡を公表することに関しては最終章コーダが詳細を教えてくれる。深い躊躇と熟考の末だったことがわかり,寧ろバーンスタインとその家族を守り通す筆者の力量に驚く。
書簡が語る愛の物語と同じくらい,コーダに綴られた筆者・吉原真里の文章は心打つ内容だ。「個人のミクロな物語は,歴史のマクロな構造のなかで織りなされる。/天野と橋本のそれぞれがバーンスタインと育んだかけがえのない関係。それは,戦後の日米関係史,音楽産業の発展,そして世界の政治関係の流れのなかでこそ進展していった。(略)それと同時に,ふたりがバーンスタイン亡きあと三十年経ったいまでも抱きつづける,マエストロとその芸術への深い愛は,そうした歴史や構造を超越したものである。それを可能にしたのはまさに,音楽,そして芸術の力であろう。」(pp.412-413)
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