本人のトークを聞くことができた(大変な盛況ぶり!)。シシャパンマの1枚を指して淡々と,この黒い点はアメリカ人女性の隊で,この写真を撮った直後に雪崩で流されたのだ,と語る。他にもこの14座登頂については新刊「最後の山」(石川直樹 新潮社 2025)に詳しい。
写真を撮るのも,記録を書き残すのも「忘れたくない。あの苦しさと喜びを忘れたくない。いくつもの出会いと別れを忘れたくない」からだという(写真展チラシにも新刊帯にも同じ文言がある)。その切実で誠実な姿に触れることができて,同時代に生きる幸せを感じる。今までもたくさん彼の写真展を見てきたし,これからも見続けるだろう。

K2の7045メートルのキャンプで停滞中に。「下界とは異なる鮮明な夢を見た。(略)夢の手触りというか感触のようなものが,街で眠っているときよりも具体的で,妙な感覚がある。現実と幻のあいだを行き来しながら見る高所での夢は,いつも鮮やかで輪郭がはっきりしている。眠りが極端に浅いからだろうか。」(p.79)
最後の遠征中に。「重さが苦しさとなって跳ね返ってくる高所登山において,小ぶりな岩石ほどもある中判カメラと,予備を含めたフィルムの束を持っていくようなバカげた登山者はいない。ぼく自身,何度も捨てたくなったが,『登山者としてではなく,写真家として登っている』という思いがそれを押し留め,どうにか頂上までカメラとフィルムを持ち上げてきた。(略)空気の薄い環境で,朦朧とした意識の中,確かに自分が向き合った風景をぼくは忘れたくない。記録したいのである。」(p.161)
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