先入観にとらわれないで,と言われても,作品が扱うテーマはやはり紛争・戦争や国境線などなど。想像力の及ばない現実がつきつけられてきます。
最後の部屋のスハ・ショーマン「神の御名において止めよ」という映像作品のバックにはモーツァルトのレクイエムが響いていて,哀しい旋律が痛ましい映像に被さって涙腺は決壊寸前。
しかし,会場を歩いて感じたのは,たとえば「世界報道写真展」(東京都写真美術館で年1回開催)を見るときのような,「世界の現実と自分の無知に打ちのめされる」感覚とはちょっと違う印象でした。
アトファール・アハダース「私をここに連れて行って:想い出を作りたいから」のように陽気でポップな作品は見ているだけで楽しい。絵葉書やキャンディーを持ち帰ることのできる作品もあります。もっとアラブのことを知ってもう一度見に来たい,と感じた展覧会でした。
マハ・ムスタファ(カナダ在住)の「ブラック・ファウンテン」Black Fountainは文字通り黒い噴水。原油がモチーフになっているとのことですが,白い壁を背に黒い水が噴出する様子は,不気味ではあるのだけれど,どこか水墨画のような静けさも感じます。後ろの窓が夜景になるとまた表情が変わるのかもしれません。
マハ・ムスタファ「ブラック・ファウンテン」