カズオ・イシグロの最新作「忘れられた巨人 The Buried Giant」(土屋政雄訳,早川書房)。かなり前に読み終えて,なかなかここに書くことができないでいた。今もどのように書けばよいかわからないままだ。ならばスルーしてしまおうかとも思ったけれど,それでは前に進めない,という気もしている。
「わたしを離さないで」以来,新作をずっと待ち望んでいたのだが,この「ファンタジー」にはびっくりして少し後ろへ引いた。訳者あとがきではこの小説の設定について「不意打ち」と表現している。
アーサー王伝説と地続きのファンタジーはあくまで「道具立て」であり,この小説のテーマは「記憶」にほかならず,人は何を記憶して何を忘れるのか,いつまで記憶していつ忘れるのか,と読むものに考えさせる。しかし,とちょっとため息をつく。この設定には私はどうしても入り込めない。
ラストは美しく衝撃的でもある。そうか,老夫婦の愛の物語と読めばよいんだ,と思ったものの,もう一度最初から読み直そうという気が起こらない。カズオ・イシグロの愛読者のつもりだったのに,この本を大好きな「わたしたちが孤児だったころ」や「充たされざる者」の隣に並べることを躊躇する自分の感覚にこそ驚いている。
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