こんな時には島田雅彦に限る,という感じのタイミングで新刊「スノードロップ」(新潮社 2020)を読了。『無限カノン』三部作の第四部に当たるという惹句に,期待度満点で届くのを待った。そして寝食を忘れて読み終えた。「良心=美しい魂」の復活に心が震える!この非常時に,権力者の無責任体質を嘆き罵るだけでは生きていけない。「美しい魂」は不滅なのだ,と信じること。
「いつの時代とも知れないが,そう遠くない未来」が舞台で,「スノードロップ」とは皇后不二子が「ダークネット」で用いるハンドルネームである。彼女がダークネットを駆使して企むのは「令和の改新」。
…荒唐無稽な設定だろうか?否,これは無限カノンの続編。不二子と消えたカヲルの魂が行き着いた先なのであって,現代日本のパラレルワールドなのであって,だからこそ,私たちのあり得るかもしれない未来がここに描かれているのだ。島田雅彦という同時代を生きる作家の手によって。
「死者がいつまでも生きている者たちの心にとどまるのは,彼らが身近にいる証しなのだそうです。儀式を通じて,また折々に故人を偲ぶ時,ああまだ身近にいるなと感じます。往年の笑顔や話し声がまざまざと甦ることもあり,そんな時は自分も半身だけあの世の側にいるのではないかと思うことがあります。」(p.73)
「自暴自棄になっている自分は醜い。できれば見たくないが,ため息を一つついた後,やや醒めた目で惨めな自分を見つめる余裕を持ちたいものです。その時,他人事のように自分の恨みを聞いてやるのです。自分が抱え込んだ恨みつらみを箇条書きにしてみるのです。そうやって自分の心の闇に蝋燭を灯してやれば,自暴自棄になること自体に飽きるはずです。一生を復讐のために費やすのはもったいない。復讐は結局は未遂に終わるか,自らの死によって終止符を打つことになり,自己満足さえも得られないでしょう。」(p.137)
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