ずっと気になっていたル・クレジオの「地上の見知らぬ少年」(河出書房新社 2010)。ストーリー展開のないエッセイというか散文で,訳者(鈴木雅生)あとがきによれば,「本書の軸となっているのは,初めてこの地上に降り立った子どもの無垢な瞳に,この世界はどのように映るのだろうという夢想だ」。(p.352)
で,告白してしまうと,この大著を読み通すのはなかなか大変だった。少しずつ,美しい文章を読み進めるのは楽しい時間だったけれども,世界を見つめる少年の夢想が約350ページ延々と続く。最後の方はお手上げ,という感じで読み飛ばしてしまった。
石川直樹の写真展会場で,数え切れない付箋が挟まれていたのがこの本だった。旅をして世界を見つめる写真家の魂が共振した書物の前で,あえなく挫折してしまった自分にがっかり。いったんは登頂断念,またいつか再アタックしてみようか,と。(←高尾山しか登ったことないですが。。BSの登山番組ばかり見てるもので。。)
「美に心奪われた人は,いつまでもそこに留まっていることができる。すっぽりと美に包まれてぼくは立ちつくす。まるで瞳と後頭部で同時に美を眺めているようだ。澄んだ海が波立ち,波頭のひとつひとつがくっきりと見える、頭上にはなめらかな大空,足元には黒ずんだ大地。太陽がゆっくりと進んでいく。これまで夥しい数の人間が,そして動物が,来る日も来る日もこの光景を眼にしてきた。だけどその痕跡は何も残っていない。生命の歴史のなかに現れて,動き回り,愛し合い,そして死んでいっただけ。彼らが眼にしていたのは,今まさにここにある鮮明に澄み渡った美,ぼくが見ていると同時にぼくを見ている美だ。これこそが,消えることのない光のなかにある唯一の真実なのだ。」(p.147)
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